イタリアに日本製パスタがないのと同じ?

ショー会場に降り立ってみる。と、前回の2009年にほとんど消えてしまっていた輸入車の多くが帰ってきていた。自動車界の首脳陣もしかり。トップデザイナーだけ見てもファブリツィオ・ジウジアーロ(イタルデザイン−ジウジアーロ)、ローレンス・ヴァン・デン・アッカー(ルノー)、オリヴィエ・ブーレイ(メルセデス・ベンツ)といった人物と会うことができた。ジウジアーロ氏は「国際ショーのムードがよみがえった」とボクに語った。

ジャーナリストもそれなりに国際色豊かだった。トヨタが用意した『ドラえもん』のキャラクター人形の前で喜々として記念撮影している一団がいたので声をかけてみると、インドからきた記者たちだった。その中のひとりは、「ドラえもんは、私が小さい頃からインドで放映していたよ」と言ってから、「(クレヨン)しんちゃんもね」と付け加えた。日本のアニメがインターナショナルであることを、はからずもモーターショーで感じた。

しかしボクは心配する。この東京ショーを若い人たちが見て、「これが世界の自動車だ」と勘違いしてしまうことを、である。
世界のモーターショーで年々存在感を増し、コンセプトカーづくりの腕もめきめきと上げている「ヒュンダイ」「キア」「サンヨン」といった韓国系メーカーの乗用車出展(注:ヒュンダイはバスのみ出展)もなければ、欧州市場への本格進出をうかがう中国自動車メーカーのスタンドもない。
ちなみにジュネーブショーやボローニャショーでは近年、中国からパーツを運んできてイタリアで組み立てた小型車のスタンドが出展するようになってきている。そのぐらい世界の自動車地図は塗り替えられようとしていることを、東京ショーでは、まったく感じることができないのである。

もちろん、マーケットが存在しない、または見込みがない地域のショーに出展するメーカーなどは、資本主義社会において存在しない。イタリアのスーパーマーケットに日本製パスタやトマト缶が並んでいないのと同じことである。日本がいまだ自動車立国である証左なのかもしれないから、これで良いのだと言う人もあろう。それに、パーツサプライヤーも含めたプロ向けのトレードショーという意味では、東京はその役割を十二分に果たしている。そうした意味で、今ふうの言葉を使えば、地道な“どじょう”ショーの方向を目指すこともできよう。

だが、他のプロダクトを考えてみよう。もはやヨーロッパで日本ブランドの携帯電話を探そうと思っても、「ソニーエリクソン」くらいしか見つからない。パソコンもしかり。店頭の大半を占めるのは台湾系ブランドである。そう、日本の家電量販店とはまったく別の光景が展開されているのだ。
同じことが国外のモーターショーでも起きようとしているのに、東京ショーを見ているとそれに気付けない。もちろん2年前の惨憺たるショーからここまでのリベンジを実現した関係者・出展社の苦労はリスペクトする。しかしそれなりに立派になったぶん、人によっては「Deutschland über alles(世界に冠たるドイツ)」のごとく、「Japan über alles」と信じてしまうであろうムードが漂っている。

これが世界のモーターショーのスタンダードと思われてしまうと困る。未来を支える日本の青少年のため、いっそのこと、「18禁」にしたほうがいいのではないか? そんな過激なアイデアさえ浮かんでしまった。

ドラえもん人形の前で記念撮影するインド人プレス団。
ドラえもん人形の前で記念撮影するインド人プレス団。 拡大
2年前乗用車を出展していたヒュンダイだが、ご存じのように撤退したので今回はバスのみ。
2年前乗用車を出展していたヒュンダイだが、ご存じのように撤退したので今回はバスのみ。 拡大
センチュリーが大好きな大矢アキオの個人チョイスは、同車を生産する関東自動車工業が参考出品した「フラックシップ・ハイブリッド・コンセプト」。
センチュリーが大好きな大矢アキオの個人チョイスは、同車を生産する関東自動車工業が参考出品した「フラックシップ・ハイブリッド・コンセプト」。 拡大
渋谷で。イタリアのパスタは日本に浸透しているものの……。
渋谷で。イタリアのパスタは日本に浸透しているものの……。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

あなたにおすすめの記事
新着記事