「朝日のア」だった

実は先述のCantiere、イタリア語では「工事現場」を示す。搬入・搬出口を表す関係者用のサインである。Cantiereとともに記されている前述の言葉は、道に沿ってアルファベット順になっている。「DELTA」の次は「ECHO」という具合だ。工事区間の末端に近づくと「YANKEE」という看板も出てくる。

現場で掘削した土砂を運ぶダンプトラックや橋梁を運搬するトラックの運転手は、地元の人とは限らない。ましてや今日イタリアの建設現場では、外国から出稼ぎに来ている作業員も少なくない。そうしたなか「今日の現場は、ここ」といった手順を示すのに、地名にあり得ないような名前にしておけば混乱を避けられる。もっとも効率的、かつ正確な方法なのである。

佐渡氏も後日、伊和辞典を調べて、Cantiere はCantinaではなく、「工事現場の入り口」であることを知ったという。だが佐渡氏の報告は続いていた。看板に記されていた建設会社名に問い合わせをして、なんと工事責任者から返答をもらっている。こういってはなんだが、仕事と直接関係がなく、また一般消費者と取引のないイタリア企業としては異例の対応である。佐渡氏のあくなき探究心が伝わったのだろう。

返答は「弊社にご興味を持っていただきありがとうございます。社内では、場所の名前に航空業界で用いられている国際的コードを使っています」というものだった。そのコード、正式名称は「NATOフォネティックコード」という。日本における「朝日のア」「いろはのイ」と同じ、というわけだ。

佐渡酒造氏は、ウイスキーのなかでもアイリッシュはWHISKEYとつづられるのに対し、スコッチは看板のようにKとYの間にEがない(WHISKY)ことを指摘。「工事責任者がスコッチファンなのでしょうか?」とジョークで結んでいる。

国道77号線。一部区間は工事が終わって、快適な自動車専用道路が開通している。
国道77号線。一部区間は工事が終わって、快適な自動車専用道路が開通している。 拡大
文中の読者が発見したのとは別の、国道77号線における「WHISKY」。
文中の読者が発見したのとは別の、国道77号線における「WHISKY」。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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