欧州人ならわかる、あの感じ
このCMのニュアンス、欧州に住む人なら、うなずく人が少なくない。先にことわっておくが、オペルは売れている。2014年ボクスホールと合わせて約88万5000台を売り上げ、ブランド別欧州販売トップ10で、フォルクスワーゲン(VW)やフォードに次ぐ3位にランクしている。
かつて、GMのキャデラックの有名なキャッチコピーに「The Standard of the World」というのがあった。いつでもどこの工場でも常に一定品質の製品を製造し、顧客に提供するのは20世紀アメリカで育まれた高度な技術であり、それは簡単なことではない。GM系のオペルは、かつてのスローガンを大西洋の反対側で忠実に守ってきたからこそ、常に一定の顧客を獲得してきたといえよう。
しかし……オペルなのだ。
オペルは長年、価値ある品質をリーズナブルな価格で提供することを得意としてきた。しかしそのために、同じサイズのVWもしくはプレミアムブランドを買うよりお得という、いわば消極的選択のイメージをもつユーザーもいて、エンスージアスティックなイメージが薄い。結果として、前述のCMのスタジオ編における女優のように、クルマにクルマ以上の価値やオーラを見いだそうとする人の選択肢からは外れやすい。それどころか時として、アニメ『ドラえもん』におけるジャイアンの口ぐせ「のび太のくせに」に似た、根拠を省略した決めつけがオペルにつきまとうのだ。
またオペルは、歴史的なグローバル企業の製品ゆえ、他の欧州ブランドより無国籍な雰囲気が漂う。したがってレンタカー編の紳士のように、外国でエキゾチックなクルマとのランデブーを楽しもうともくろんでいたところに異国情緒が薄いオペルが当たってしまうと、人々は物足りない気がしてしまうのだ。食の国イタリアの旅先で知り合った老夫婦の家に招かれて行ったら、ホットドッグが出てきたようなものである。
そういう筆者自身も、旅先のレンタカー屋さんに、「今日は、ほ、ほんとにオペル(もしくはボクスホール)しかないんですか?」と、真顔で詰め寄ったことが幾度かある。
欧州の自動車ユーザーの誰もが、とは言わないが、一度や二度味わったことがある経験を、オペルのCMは忠実に再現しているのである。

大矢 アキオ
コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。21年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』、『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。
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