見る者が試されている

このCMには、さらに深い意義がある。
自動車広告・宣伝の歴史は、自社のクルマをより立派に見せ、ライバル車と比較することに専心してきた。日本でも1960-70年代に「プラス100ccの余裕」「隣のクルマが小さく見えまーす」といった比較広告が戦わされたのは、多くの人が知るところである。また、アメリカでは今日でもモーターショーのプレスブリーフィングにおいて名指しでライバル車が引き合いに出される。

対してオペルのCMは自らのブランドイメージを逆手にとった、画期的な自虐CMだ。そうすることで、既成概念にとらわれる人がいかに不幸であるかを訴えている。

ふたつのCMの結末を言うと、「スタジオ編」はクラウディア・シファーが高らかに笑いながらコルサを運転するシーンで終わる。「レンタカー編」は、紳士の後ろに待っていたシファーが「私は借りるわ」と声をかける場面に続き、紳士も喜々としてコルサのステアリングを握る風景で幕となる。

このオペルのCMは、自動車広告界に新たな「The Standard of the World」を持ち込んだ。同時にボクたちは、これからもクルマに20世紀的優越感や舶来感覚を持ち越すのか否か、試されている気がしてならない。

(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

新型「オペル・コルサ」のCM「スタジオ編」
新型「オペル・コルサ」のCM「スタジオ編」。 拡大
新型「オペル・コルサ」のCM「レンタカー編」
新型「オペル・コルサ」のCM「レンタカー編」。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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