新型車両の名前はjazz

先日、トリノ郊外の駅で鉄道を待っていたときのことだ。見たことのない電車が向かいのホームに滑り込んできた。サイドには「jazz」と記してある。さらに驚いたことに、見慣れたBERTONE(ベルトーネ)のサインも記されている。
数日後、その旅の終わりにフィレンツェ・サンタマリア・ノヴェッラ駅に降り立つと、あのjazzが別のホームに停車しているではないか。県内のピストイア行きだった。発車時刻まで15分ほどあったので、車内を見学することにした。ドア付近は「ミヌエット」などと同様に低床ノンステップで、ホームとの高低差が少ない。さらに補助ステップがせり出すので乗降が楽だ。

イタリアの鉄道に詳しい方ならご存じのように、最近までたとえ通勤用でも、ホームからアクセスするには、車両のドア内側に設けられたステップを登らなければいけない古いモデルが多かった。ノンステップ化は、欧州屈指のスピードで高齢化が進むイタリアでは、必要不可欠な装備だろう。重いスーツケースを伴った観光客にもやさしい。

帰宅してから調べてみると、jazzはイタリアの鉄道会社トレニタリアが、2015年2月に導入したばかりの郊外・通勤型車両だった。製造は前述のミヌエットと同じアルストム社のイタリア工場である。4両と5両の仕様があり、4基のモーターを搭載し、最高速度は160km/hだ。同時に従来型よりも低い消費電力や、95%という高いリサイクル率も誇る。車内と車外の双方に装着されたカメラは防犯目的のほか、乗務員による確実なドア開閉操作を助ける。

ベルトーネが担当したのは、インテリア部分である。参考までに、前述のフレッチャロッサ1000の内装および外装グラフィックも、ベルトーネによるものだ。座席レイアウトは、立ち席を多くとった型と、荷物搭載スペースを確保した都市・空港輸送型の2種がある。いずれの編成も、バリアフリーのトイレが1カ所ある。車内照明はLEDで、200Vのアウトレットも備える。将来的にはWi-Fiサービスも提供するようだ。

なおベルトーネの近況を記せば、2013年、ジウジアーロ・デザイン出身のアルド・チンゴラーニをはじめとする複数の企業家が、BERTONEの商標を創業家から取得。新生「ベルトーネ・デザイン」をミラノで発足し現在に至っている。いっぽう、同様にデザイン会社として活動してきたトリノの旧ベルトーネは、救済してくれる企業が見つからないまま2014年に倒産した。

トリノ郊外モンカリエリ駅にやってきた新型車両「jazz」。
トリノ郊外モンカリエリ駅にやってきた新型車両「jazz」。 拡大
先頭車両にはjazzのロゴとともに、BERTONEのサインが。
先頭車両にはjazzのロゴとともに、BERTONEのサインが。 拡大
スペックによると、ドア開口部の幅は1300mm。JR東日本のE231系と同レベルである。
スペックによると、ドア開口部の幅は1300mm。JR東日本のE231系と同レベルである。 拡大
ドアが開くとノンステップの室内へとアクセスできる。自動せり出し式ステップも装備されている。
ドアが開くとノンステップの室内へとアクセスできる。自動せり出し式ステップも装備されている。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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