インテリアのセンスは抜群だけど……
jazzで感心すべきは、インテリアカラーのセンスだ。視覚に障害のある人を意識したと思われるイエローのラインが座席横のグリップや段差、そして頭上の物入れの縁に用いられているのだが、日本の路線バスなどのそれと比べて格段にさりげなく、スマートなのである。
近年、日本でも公共交通機関のインテリアデザインのなかには洗練されたものが現れてきたが、全体的に見るといまひとつだ。
例えば新幹線のインテリアは機能的だが、ボクに言わせれば事務機に囲まれたような、どこかオフィス感覚が伴う。東京都営バスのキャラクター「みんくる」柄シートもしかりだ。彼を考案したクリエイターの苦労はくみたいが、個人的には警視庁の「ピーポくん」と同様、抱きしめたくなるようなキャラクターではないため、お尻の下から見られていると戸惑う。
対してjazzの内装は、なんとクールなことよ。これで毎日通勤できるイタリア人がうらやましい。……とベタ褒めしたいところだが、こちらも心配がないといったら、うそになる。
それは「メンテナンス」だ。イタリアでは、いわゆる動く歩道から切符の自動販売機まで、最初はにぎにぎしく導入されても、その後の点検維持が人員・予算の面で追いつかず、最終的には「故障中」の張り紙が貼られっぱなしになることが多い。わが街を走るしゃれた路線バスもしかりだ。導入当初はエアコンが効いているものの、いつの間にか故障している。最近のバスの窓は多くがはめ殺しだから、さらにタチが悪い。
jazzの解説によると、車両には最新の自己診断システムが搭載されていて、メンテナンス効率が向上しているというが、昨今の経費節減でパーツ交換を怠れば、言わずもがな快適性は低下する。エアコンだけならいいが、故障すれば、ただでさえ正確ではないダイヤは、さらに乱れるだろう。
スタイリッシュなものの、冷房が壊れた暑い車内で文句を言いながら乗るか、苦手なキャラクターがちりばめられたシートを我慢してでも、快適通勤するか。難しい選択である。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、Trenitalia)

大矢 アキオ
コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』、『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。
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