「エルドラド」に乗る廃虚の王

ボーンズは、さびてボロボロになったクルマを修理している。クルマが直らなければ、この場所から離れられない。パーツを手に入れるためにも金が必要だが、廃材売りはできなくなってしまった。街を仕切っているギャングのブリー(マット・スミス)が、廃虚にある金属クズはすべて自分のものだと宣言したのだ。

彼は拡声器で「この街は俺のものだ! ここはブリー・タウンだ!」と叫びながらクルマで街をまわっている。たとえ廃虚であっても、彼はそこで王になりたいのだ。オープンカーのトランクの上にわざわざ据え付けたシートに座り、全身で威嚇するように声を張り上げる。乗っているのは、1966年型の「キャデラック・エルドラド」だ。“黄金郷”という名を持つクルマである。走っている場所は、実際にはゴーストタウンなのに。

ボーンズは、隣に住む少女ラット(シアーシャ・ローナン)と心を通わせるようになった。彼女は、この街が寂れたのは、呪いのせいだと話す。貯水池を作るために街の一部が水の底に沈み、それから荒廃が始まったというのだ。街をよみがえらせるためには、“ロスト・リバー”に行って取り戻さなければならないものがある。

ビリーが働くことになったのは、奇妙なナイトクラブだった。スター女優のキャット(エヴァ・メンデス)はステージで血まみれになるパフォーマンスを見せ、観客は喝采を送る。エロティックでグロテスクなショーが毎晩繰り広げられている。いわば、ゴシック趣味のキャバレーだ。デイヴはここのオーナーでもあった。ビリーは何も芸を持たないので、“シェル”と呼ばれる密室で働くよう促される。

「キャデラック・エルドラド」
ゼネラルモーターズの高級車キャデラックの最上級グレードに位置していたのが「エルドラド」である。1953年に初めて登場し、2002年に生産が終了した。映画に登場するのは第5世代のモデルで、7リッターV8エンジンを搭載している。(写真は1967年モデル)
「キャデラック・エルドラド」
    ゼネラルモーターズの高級車キャデラックの最上級グレードに位置していたのが「エルドラド」である。1953年に初めて登場し、2002年に生産が終了した。映画に登場するのは第5世代のモデルで、7リッターV8エンジンを搭載している。(写真は1967年モデル) 拡大
(C)2013 BOLD FILMS PRODUCTIONS, LLC.
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第100回:非現実のデトロイトに潜む暴力と鎮魂の物語『ロスト・リバー』の画像 拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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