『ドライヴ』のゴズリングが初監督

この映画の監督は、ライアン・ゴズリングである。2012年に傑作映画『ドライヴ』で、ストイックで孤独な“逃がし屋”を演じた俳優だ。あの作品を撮ったのがニコラス・ウィンディング・レフンで、ゴズリングは次の作品の『オンリー・ゴッド』にも出演している。彼はその耽美(たんび)的な世界観に心酔してしまったようだ。初監督作品となった『ロスト・リバー』では、レフンの影響を隠そうともしていない。

ゴズリングは、『ラースと、その彼女』『ブルー・バレンタイン』でダメ男になりきったかと思えば、『ラブ・アゲイン』ではエマ・ストーンと恋に落ちる色男をコミカルに演じた。『プレイス・ビヨンド・ザ・パインズ/宿命』では完璧な肉体美を披露し、当代一のイケメンぶりを見せつけたのである。マネーメイキングスターとして派手な娯楽作に出演するのは簡単なことだったはずだが、彼はあまりメジャー志向とは言えない好みを持っていたようだ。

『ドライヴ』には恋愛要素もあったので誰にでも勧められたが、『オンリー・ゴッド』は観客を選ぶ作品である。極めて観念的で、すさまじい暴力描写に満ちていた。レフン監督はもともとそういう作風で、『ヴァルハラ・ライジング』や『ブロンソン』などは全編がバイオレンスの嵐である。ゴズリングは、彼の作品に出演したことで、暴力を美しく描くことが映画にとっていかに重要であるかを知ってしまったのだ。

『ロスト・リバー』の世界も、陰惨な暴力が支配している。ブリー(bully)というのは“いじめ”という意味であり、ボーンズ(bones)は骨だ。そして、女性の名はラット(rat)とキャット(cat)である。隠喩に覆われた街に君臨するのは、水底から呪いを送り続ける魔物なのだ。

ゴズリングの監督デビューは、必ずしも成功したとは言えないかもしれない。イメージの断片は不格好につなげられ、物語は熟成の時を待たずして荒々しく組み立てられたようにも見える。きっと、彼はかつて映画が持っていた熱と渇きのようなものに、再び命を与えたかったのだ。だから、作品は悲哀と悔恨が染み付いたデトロイトで作られねばならなかった。

(文=鈴木真人)

(C)2013 BOLD FILMS PRODUCTIONS, LLC.
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第100回:非現実のデトロイトに潜む暴力と鎮魂の物語『ロスト・リバー』の画像 拡大

第100回:非現実のデトロイトに潜む暴力と鎮魂の物語『ロスト・リバー』の画像 拡大
『ロスト・リバー』
監督/脚本/製作:ライアン・ゴズリング
lostriver-film.com
2015年5月30 日(土)よりヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次公開
配給:トランスフォーマー
『ロスト・リバー』
    監督/脚本/製作:ライアン・ゴズリング
    lostriver-film.com
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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