高性能車もモロッコの旧市街では苦戦
このシリーズは毎回監督が交代している。第1作のブライアン・デ・パルマからジョン・ウー、J.J.エイブラムス、ブラッド・バードときて今回はクリストファー・マッカリーだ。トムとは前から縁があり、『ワルキューレ』では脚本家として参加していた。本欄でも紹介した2012年の『アウトロー』の監督だ。あの作品ではトムの強靱(きょうじん)な肉体を前面に出したアクション演出をしていて、新境地を開拓した。「シェベルSS」を使ったカーチェイスでは、トムが運転テクニックを披露している。CG抜きのアナログ映像で、ちょっとしくじってぶつかった場面もカットせず、迫力のある映像に仕立てていた。
もちろん、今回もカーチェイスシーンがある。舞台はカサブランカだ。「BMW M3」で激走するのだが、この街は高性能車が実力を発揮するには条件が悪い。メディナと呼ばれるモロッコの旧市街は、曲がりくねった狭い道が続く。実際には混雑しているのだが、映画では人を入れずに撮影していた。それでも、ハイパワーを生かすことができない道なのは変わらない。
しかも、あろうことか階段を下りていく場面まである。『ボーン・アイデンティティ』では階段を「MINI」で駆け抜ける名シーンがあるが、M3は大きすぎる。メディナでさんざんサイドを削った上に階段ではバンパーをぶつけ、ひどい状態になってしまった。『ゴースト・プロトコル』で「i8」を丁重に扱っていたのとは大違いである。あの時はi8がまだプロトタイプだったから、傷つけるわけにはいかなかった。高価なクルマとはいっても、市販車ならば盛大に破壊しても怒られない。
アクションシーンがグレードアップしたのもよかったが、いちばん感心したのは脚本がしっかりしていたことだ。かなり入り組んだストーリーを、観客が戸惑うことなく理解できるように工夫してある。もちろんファンタジーではあるのだけれど、一貫した破綻のない世界を作り上げた。ビッグバジェットのシリーズものでは、シリーズを重ねると設定に頼りきった緊張感のない作品になるケースが多いのだ。トムが体を張っているだけあって、『ミッション:インポッシブル』は安心のブランドとなった。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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