アルファ・ロメオ4C(MR/6AT)
真正アルフィスタの友 2015.08.17 試乗記 アルファ・ロメオのヒストリーにおいて、極めてまれな量産型のMRスポーツカー「4C」に試乗。カーボンを用いた軽量ボディーや専用設計のシャシー、最新のターボエンジンは、どんな走りをもたらすのか? 燃費の情報も、あわせて報告する。第一印象は「レーシングカー」
アフォーダブル・スーパーカー。「手の届くスーパーカー」をうたうのが、アルファ・ロメオ4Cだ。
たしかにこのルックスも、カーボン製バスタブのようなモノコックも、最高速258km/h、0-100km/h加速=4.5秒の動力性能も、あるいはモデナのマセラティ工場製という出自も、ことごとくスーパーカー級に違いないが、価格は800万円台。半分以下の予算で手に入るスーパーカーと言えなくもない。
試乗車のハンドル位置は左。低い姿勢で幅30cmはあるヌードカーボンの敷居をまたぎ、運転席に身を沈める。その“儀式”からして、すでにスーパーカークラスである。
ノーズ先端が低いため、段差などでは注意を要すること、などなど、FCAジャパンのスタッフからいつもよりだいぶ長い出走前レクチャーを受け、エンジンをかけると、地下駐車場にちょっとした爆音が轟(とどろ)いた。スポーツパッケージ付きの試乗車は、「直管マフラーですから」というのも注意点のひとつだった。
恐る恐る外に出て、海岸通りに入る。乗り味の第一印象は、スーパーカーというよりも、レーシングカー的だ。6時の位置に大きなつぶしの入った小径ステアリングはノンパワー。ステアリングは手応えに富む。路面の外乱にもけっこう神経質で、しっかりと直進させる必要がある。オートマチックなラクチンさでもてなすクルマではない。
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走りだせば、刺激いっぱい
2年ほど前の第一報では、乾燥重量895kgと報じられたが、フタを開けると、エアコンを標準装備する日本仕様の車重は1100kgある。カーボンモノコックや、FRP新素材の外板や、アルミのサブフレームなどを採用しても、「マツダ・ロードスター」より重いのか、という落胆は否めないが、そうであるにしても、4Cの動力性能は刺激的だ。
モノコックの背後に横置きされるエンジンは、「ジュリエッタ」用直噴1742cc 4気筒ターボをチューンした240psユニット。強烈なターボキックといい、リリーフバルブ作動時のプシューという音といい、いまどき感心するほどターボっぽいエンジンだ。といっても、歯がゆいターボラグとは無縁。ひとことで言うと、速い以上に速い“感じがする”パワーユニットである。
ジュリエッタのDCTよりはるかに“詰め詰め”の変速を行う6段デュアルクラッチ変速機も、そんなアツいターボユニットと相性がいい。4Cにクラッチペダル付きのMTはないが、欲しいとも思わなかった。
スポーツエキゾーストの排気音にもけしかけられて、走りだすなりアドレナリンが出た。車列がほどけ、コースがちょっとクリアになったので、すかさず右足を踏み込むと、その足がヒヤっとした。「これか!」
どこかにたまった雨水が、急加速すると前席足元に漏れてくる。対策をしたくても、虎の子の1台に試乗予約のスケジュールはびっしりで、その暇がない。という、試乗車に固有のモンダイは事前に聞いていたし、筆者自身もかつてはアルファ乗りだったから、そんなに驚きはしなかった。ボディーのウオータータイトがうまくいっていないらしい。翌日は靴にちゃんと防水スプレーを吹きかけてきた。
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“ミドシップ感”はほどほど
4Cは低い。一度、「フォルクスワーゲン・ポロ」の真後ろについたところ、テールゲートの開閉レバーとこちらの目の高さがほぼ同じだった。ボディー全幅はたっぷり1870mmあるが、1185mmの全高はマツダ・ロードスターより5cm低い。
だが、ワインディングロードを走ると、低重心のミドシップという感じは思ったほどなかった。ほとんどバネ感のないズンと硬い乗り心地からすると、車重も1100kgよりもっと重く感じる。
しかも今回はあいにくの雨模様。2100rpmで最大トルクを出すエンジンは、電子デフロックやスタビリティー制御を最も硬派にするレースモードでなくても後輪のグリップを失わせるのに十分で、筆者のウデだと操縦性はけっこうスリリングだった。ぬれた路面でヒリヒリしながら4Cを操っていると、80年代後半に人気を博したリアエンジンの「アルピーヌV6ターボ」を思い出した。
「ロータス・エリーゼ」のモノコックと比べると、4Cのカーボンモノコックはハイトが高い。バスタブが深いのだ。エンジンも乗員の着座位置よりだいぶ高いところにマウントされる。軽量ミドシップのヒラヒラ感に欠けるのはそのせいかと思われた。
そんなパッケージングがもたらす一番の問題は、後ろが見えないことである。
デートカーとしても使える!?
4Cの最大の欠点は、後方視界の悪さである。ミドシップだから、真後ろの視界がプアなことにはある程度目をつぶるにしても、実用上、目をつぶれないのは、右斜め後ろの視界の悪さだ。角度の浅いY字合流だと、右ドアミラーでの視認はもちろん、たとえどんなに助手席側に首を伸ばしても、これから合流する道路が見えないことがある。
筆者がオーナーになったら、まず、カーショップで売っている小さな凸面鏡を右ドアミラーの中に貼る。理想を言えば、魅力的な異性を常に助手席に座らせて、合流箇所では介助してもらうことである。
キャビンは、ふたりには十分な広さを持つ。特にドア側のショルダースペースには余裕があり、ドアポケットにヘルメットが入った「ランチア・ストラトス」をほうふつさせた。
助手席インプレッションもしてみたが、意外や運転席よりも快適である。メーターナセルやステアリングホイールがない分、前方視界は広々としていて、地をはうようなローポジションの楽しさが十全に味わえる。乗り心地も運転席よりむしろよかった。レーシングカーテイストのデートカーとして使えるかもしれない。
とはいえ、この4Cを万人に薦めようとは思わない。頭に浮かんだアイデアルオーナーは、90年代の「SZ」や「RZ」で苦楽を共にした真正アルフィスタである。サーキットの近くにガレージを借りて、長所にも欠点にもツッコミを入れながら、同好の仲間とワイワイガヤガヤ楽しむ。そんな使い方をするのが一番幸せだと思う。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=田村 弥)
テスト車のデータ
アルファ・ロメオ4C
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3990×1870×1185mm
ホイールベース:2380mm
車重:1100kg
駆動方式:MR
エンジン:1.7リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:240ps(177kW)/6000rpm
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/2100-4000rpm
タイヤ:(前)205/40ZR18 86Y/(後)235/35ZR19 91Y(ピレリPゼロ)
燃費:12.1km/リッター(JC08モード)
価格:806万7600円/テスト車=889万4340円
オプション装備:スポーツパッケージ<スポーツエキゾーストシステム+スポーツサスペンション+18/19インチアロイホイール+205/40ZR18フロントタイヤ+235/35ZR19リアタイヤ>(32万4000円)/レザーパッケージ<レザーシート+レザーハンドブレーキグリップ+スポーツレザーステアリング>(25万9200円) ※以下、販売店オプション カーオーディオ<カロッツェリアDEH-970>(6万9120円)/ETC車載器(1万260円)/ルームミラーモニター&リアカメラセット(7万7760円)/レザーフロアマット(8万6400円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:5046km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:386.3km
使用燃料:34.0リッター
参考燃費:11.3km/リッター(満タン法)/12.1km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。