黄色い「ビートル」は幸福をもたらすのか

『マルタのことづけ』はメキシコ映画である。クラウディア・サント=リュスという新人女性監督の作品で、『髪結いの亭主』のパトリス・ルコントが絶賛したというから才能は疑いない。

スーパーで実演販売の仕事をしているクラウディア(ヒメナ・アヤラ)は、孤独な生活を送っている。映画が始まって7分間以上、一言のセリフも発しない。恋人も友人もいないのだ。盲腸で入院するが、誰もお見舞いに来ない。隣のベッドにいたマルタ(リサ・オーウェン)に話しかけられても、無愛想なままだ。

盲腸の手術を終えて家に帰ろうとすると、通りかかったマルタから声をかけられる。送っていくというのだ。彼女が乗っていたのは、「フォルクスワーゲン・ビートル」だった。色は黄色である。クラウディアはためらったが誘いを受け、マルタの家に向かった。マルタには娘3人と息子1人がいて、家の中はにぎやかだ。クラウディアは家族に溶けこみ、たびたび訪れて一緒の時間を過ごすようになる。

しかし、マルタの病は治る見込みがなく、死期が迫っていた。最期の思い出を作りに、一家とクラウディアは海へ旅行に出掛ける。ビートルの後席に4人乗り込み、ぎゅうぎゅう詰めになってドライブするのだ。見るだけで幸せになれると言い伝えられてきたのが黄色いビートルである。病気を治す力があるわけではないが、このビートルは確かに孤独な女性とバラバラだった家族をつなぐきっかけになったのだ。

『マルタのことづけ』DVD
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「フォルクスワーゲン・ビートル」
フェルディナント・ポルシェ博士が設計した大衆車で、ビートルというのはカブトムシに似たフォルムから付けられた愛称。ドイツで生産終了してからも海外では根強い需要があり、2003年に最終車両がメキシコ工場で作られた。
「フォルクスワーゲン・ビートル」
    フェルディナント・ポルシェ博士が設計した大衆車で、ビートルというのはカブトムシに似たフォルムから付けられた愛称。ドイツで生産終了してからも海外では根強い需要があり、2003年に最終車両がメキシコ工場で作られた。 拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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