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フォルクスワーゲンcross up!(FF/5AT)

ひと目ぼれを信じていい 2015.09.11 試乗記 下野 康史 この楽しげなルックスは理性ではなく感性でこそ選ぶべき! 駆動方式はFFのままに、足もとを逞(たくま)しくSUV風に仕立てたゴキゲンなニューモデル、「フォルクスワーゲンcross up!(クロスアップ!)」に試乗した。

タイムリーなニューカマー

フォルクスワーゲン(VW)のCO2削減斬り込み隊長、「up!」にも“クロス”が加わった。駆動方式やエンジンには手を加えず、見た目をワイルド仕立てにしたライトSUVモデルだ。

cross up!は2013年春のジュネーブショーでデビューし、その秋の東京モーターショーでもお披露目された。右ハンドルに加えて2ペダルという日本仕様のハードルがあるにしても、導入まで少々時間がかかったような気がするが、あらためて実物を目の当たりにすると、今の日本市場には実にタイムリーなVWニューカマーに思える。シンプルなノーマルup!に楽しげな潤いを持たせたルックスは、まさに「ご~きげんワーゲン~♪」である。

専用ホイールは16インチ。樹脂のオーバーフェンダーを与えられて、1インチアップとは思えないほど足もとが逞しく見える。見ても乗っても、ドイツ車としてはいちばんフェミニンなup!ががぜん、男物になった感じだ。

車高はわずかにリフトアップされ、屋根にはルーフレールが付き、ボディー全高は25mm上がった。シルバーの専用バンパーのおかげで、全長も25mm延びている。

車重は950kg。「high up!」の30kg増しと、けっこう太ったが、1リッター3気筒エンジンのスペックに変わりはない。ロボタイズド5段MTの変速機も、ギア比を含めて変更なしである。

フォルクスワーゲンのクロスシリーズの第4弾となる「cross up!」。クロスオーバールックの専用パーツが装着され、ベース車の「up!」とはひと味違う楽しげな雰囲気が演出されている。価格は194万円。
フォルクスワーゲンのクロスシリーズの第4弾となる「cross up!」。クロスオーバールックの専用パーツが装着され、ベース車の「up!」とはひと味違う楽しげな雰囲気が演出されている。価格は194万円。 拡大
用意されるボディーカラーは5色。「トルネードレッド」を選ぶと、ダッシュパッドがレッドになるのは標準型の「up!」も同じ。ただしこちらはシートも赤くなるので、室内が一段と派手に彩られる。ナビはオプション。
用意されるボディーカラーは5色。「トルネードレッド」を選ぶと、ダッシュパッドがレッドになるのは標準型の「up!」も同じ。ただしこちらはシートも赤くなるので、室内が一段と派手に彩られる。ナビはオプション。 拡大
1リッター直3エンジン(75ps)はベース車と同じ。JC08モード燃費は約3%悪化している(25.9→25.2km/リッター)。
1リッター直3エンジン(75ps)はベース車と同じ。JC08モード燃費は約3%悪化している(25.9→25.2km/リッター)。 拡大
タイヤは15インチから16インチへ。最低地上高は10mm上昇している(145→155mm)。
タイヤは15インチから16インチへ。最低地上高は10mm上昇している(145→155mm)。 拡大
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なんとなく高く、わずかに硬い

トルネードレッドの試乗車のドアを開けると、大輪の赤い花が咲いたフロアマットに迎えられる。外見は男物だと思っていたおじさんは、出鼻をくじかれる。

ボディーと同色の樹脂パネルがダッシュボードやドア内張りに貼られるのは、見慣れたup!である。運転席から見まわしたところ、cross up!だからといって、とくに大きく変わったところはない。

エンジンを起こして走りだすと、最初に気づいたcross up!らしさは、車高のたかさだった。155mmの最低地上高はたった1cm上がっただけである。トリセツの巻末にある、より詳しいボディーサイズの図説では、ノーマルとの差が最大22mmと読み取れるが、それでもその程度だ。しかし走っていると、アイポイントも身のこなしも、もうちょっとリフトアップしたように感じる。

おかげで、up!の特徴である、ペタっと低い重心感覚は減じてしまった。まるでライトウェイトスポーツカーのような“地面感”が味わえるのがup!の魅力なのだが、cross up!にはそれがない。でも、それがこのクルマのキャラである。なんとなく「高い感じ」がするのは、クロカンテイストを期待する人には喜ばれるはずだ。

乗り心地はわずかに硬くなったような気がするが、“気がする”程度である。ランニングシューズとクロカンシューズほどの違いはない。

ベース車には設定されない真っ赤なシートが室内を明るく、ポップに演出する。
ベース車には設定されない真っ赤なシートが室内を明るく、ポップに演出する。
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花柄のフロアマットは2万1600円のオプション。花の色はレッドのほか、ブルーとホワイトがある。
花柄のフロアマットは2万1600円のオプション。花の色はレッドのほか、ブルーとホワイトがある。
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他の「up!」と同様に、リアシートは2人掛けで定員は4人。サイドウィンドウは“手動チルト”式。
他の「up!」と同様に、リアシートは2人掛けで定員は4人。サイドウィンドウは“手動チルト”式。 拡大
トランクはリアシートが畳めるだけでなく、フロアボードの位置を下げられるようになっている。
トランクはリアシートが畳めるだけでなく、フロアボードの位置を下げられるようになっている。 拡大

リファインされた5段セミオートマ

エンジンはすでにおなじみポート噴射の999cc 3気筒4バルブDOHC。出力もトルクもノーマルup!と同一だが、車重はプラス30kg。そのあたりの違いやいかにと思ったが、とくに大きな違いはない。力で押すパワフルさはないかわり、車重の軽さでスイスイ進む感じは健在だ。

このエンジンをひっさげてup!がデビューしてから4年、その間にもコンパクトカー用の3気筒エンジンは次々と登場したが、滑らかさと静粛性は依然、トップクラスである。エンジニアがよく言う「音・振(おとしん)」をバランサーシャフトなしで、ここまで小さくしたのは立派だ。アイドリングでも極低回転域でも、3気筒にありがちなプルプルした振動はない。

5段セミオートマも、登場時よりだいぶリファインされた。とくにDレンジでシフトアップしていく時の“息継ぎ”が以前ほど気にならなくなった。これならトルコン式フルATからの乗り換え組にもそれほど違和感を与えることはないだろう。

VWジャパンに聞いてみると、変速機について特別な仕様変更がアナウンスされているわけではなく、電子制御とハードとのマッチングを最適化したのではないかとのこと。発売直後からこうした年次改良を行ってくるのが、まじめなドイツ車の特徴といえる。

トータルで330kmを走り、燃費は14.5km/リッターだった。これまでの試乗経験で、ノーマルのup!は20km/リッター近い数値をマークすることもあったから、それを考えると芳しくない。30kg重いのだから、仕方ないか。

ワインディングロードを行く。車重はベース車より30kg重いが、軽快感のある走りは健在。
ワインディングロードを行く。車重はベース車より30kg重いが、軽快感のある走りは健在。 拡大
トランスミッションはベース車と同じ5段のASG(オートメーテッド・マニュアルトランスミッション)。登場時よりだいぶ洗練された。
トランスミッションはベース車と同じ5段のASG(オートメーテッド・マニュアルトランスミッション)。登場時よりだいぶ洗練された。
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サイドシルには車名入りのシルプレートが装着される。
サイドシルには車名入りのシルプレートが装着される。
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タイヤサイズは185/50R16。試乗車にはコンチネンタル・コンチプレミアムコンタクト2が装着されていた。
タイヤサイズは185/50R16。試乗車にはコンチネンタル・コンチプレミアムコンタクト2が装着されていた。
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肉を削っても骨太

cross up!はあれこれ調べたり比べたりして決めるクルマではないと思う。雰囲気にひと目ぼれして買う。そんな見た目の引きの強さは、これまでのcross系フォルクスワーゲンの中でも最強に思える。

燃料計と同じ部品を使ったタコメーターの盤面は腕時計のように小さい。レバーやスイッチ類は、安っぽくなるギリギリ手前まで肉を削っている。4ドアといっても、リアドアのガラスははめ殺しで、後端がチルトするだけだ。そうした寸止めのコストダウンが随所に見えても、ドアを開け閉めする時に感じる、骨格の太さなどはやはりドイツ車だ。

試乗中いつもメモをとるA5の分厚いルーズリーフがドアポケットにすんなり収まった。いろんなクルマに乗るが、これができるドアポケットは希少といえるほど少ない。

助手席シートの背もたれは水平に前倒しすることが可能で、そうすると、荷室後端からグローブボックスまでちょうど2mのフラットな空間が現れる。中に乗っていると軽セダンに近いコンパクトさを感じるが、意外にモノが積めるのはup!ファミリーに共通の美質である。

価格は194万円。日本での最量販グレードhigh up!と5万円しか違わない。up!を買いに行き、ショールームのcross up!を見てしまって、グレードアップを決める人もかなりいそうだ。

(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸)

安全装備もベース車に準じ、「シティエマージェンシーブレーキ」が標準で装着される。
安全装備もベース車に準じ、「シティエマージェンシーブレーキ」が標準で装着される。 拡大
左からタコメーター、スピードメーター、燃料残量計。タコメーターの直径は燃料計と同じ。まるで腕時計のような小ささ。
左からタコメーター、スピードメーター、燃料残量計。タコメーターの直径は燃料計と同じ。まるで腕時計のような小ささ。
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シルバーのルーフレールが標準で備わる。
シルバーのルーフレールが標準で備わる。
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全高はベース車プラス25mmの1520mm。バンパーは前後ともシルバーに。下部にはアンダーガード風の装飾がのぞく。
全高はベース車プラス25mmの1520mm。バンパーは前後ともシルバーに。下部にはアンダーガード風の装飾がのぞく。
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テスト車のデータ

フォルクスワーゲンcross up!

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3570×1650×1520mm
ホイールベース:2420mm
車重:950kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:5段AT
最高出力:75ps(55kW)/6200rpm
最大トルク:9.7kgm(95Nm)/3000-4300rpm
タイヤ:(前)185/50R16 81H/(後)185/50R16 81H(コンチネンタル・コンチプレミアムコンタクト2)
燃費:25.2km/リッター(JC08モード)
価格:194万円/テスト車=207万1760円
オプション装備:メーカーオプションなし ※以下、販売店装着オプション AV NAVI AVIC-MRP600-VW(9万6120円)/ETC CY-ET909KD(1万4040円)/フロアマット(2万1600円)

テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:175km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(5)/山岳路(2)
テスト距離:330.0km
使用燃料:22.8リッター
参考燃費:14.5km/リッター(満タン法)/13.9km/リッター(車載燃費計計測値)

 

 

フォルクスワーゲンcross up!
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フォルクスワーゲンcross up!(FF/5AT)【試乗記】の画像 拡大
下野 康史

下野 康史

自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。

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