ボクにとってビュイックとは

かつてボクは、東京に住んでいた1990年代に、中古のビュイックを2台乗り継いだ。それまでコンパクトな「フィアット・ウーノ」に乗っていた反動で、大きなクルマに乗りたくなったのと同時に、米軍基地のそばで育った、子供時代への郷愁もあった。
ウーノの車検が近づいたのをきっかけに、「6人乗りのベンチシート」「コラムシフト」「横長スピードメーター」「米国車らしいクロスのシート」を条件に捜索を開始した。アクセサリーに対してそれほど興味がないボクとしては、ボディーが大きければ、それでよかった。

はじめに思いついた初代の「フォード・トーラス」は、残念ながら横長スピードメーターではない。また、エアロダイナミックなスタイルが、ボクが求めていた「アメリカのおばあちゃんが乗っているクルマ」っぽさに欠けた。やがて見つけたのは、ヤナセの世田谷中古車センターに並んでいた1990年型の「ビュイック・リーガル(米国名:センチュリー)」のセダンだった。往年のアメリカ車からすれば小ぶりだが、全長は4.8メートルあった。

支払ったのは、ウーノの売却代金プラス200万円。1992年のことだ。
V6 OHVのボロボロというエンジン音、低速からのゆとりあるトルクと、GMのハイドラマチックATならではの滑らかな変速、首都高の継ぎ目を乗り越えるときの船のようなピッチは、ボクを十分に満足させた。ダッシュボードの木目パネルは、印刷のアミ点が見えてしまう代物だったが、アメリカ家電風と考えれば、アバタもエクボだった。

アメリカ車の魅力にすっかりはまってしまったボクは2年後の1994年、今度はリーガルの姉貴分である1991年の初代「パークアベニュー」に乗り換えた。全長5212mm、ついに5メートルを超えた。全幅もさらに広がった。ETCが導入される前である。料金所では、ステアリングのある左側から右側のサイドウィンドウまで手を伸ばすと、たびたび筋肉がつった。そこで家の台所から拝借したブリキの「ひしゃく」を使って通行料金を払うと、収受員のおじさんから「こりゃ~いいや」と笑われた。

ビュイックをひとことで語れば、「中庸な精神」である。十分なゆとりを備えながらも、華美に陥ることがない。シボレーでもキャデラックでも得られない世界である。別の言い方をすれば、たとえ大きくても、プレミアムカーならではの妙な意気込みがない、品の良い、真の豊かさを感じさせるブランドだった。同じく「中庸な精神」の文字がふさわしかったオールズモビルや、フォード系のマーキュリーが消滅した今、そのブランドイメージは、さらに貴重になったといえよう。

ボクが東京時代に乗っていた「ビュイック・リーガル」。GMのAボディーをベースとしていた。1992年ごろ。
ボクが東京時代に乗っていた「ビュイック・リーガル」。GMのAボディーをベースとしていた。1992年ごろ。 拡大
当時は米国旅行したときも、たびたび「リーガル」の本国版である「センチュリー」(写真手前)のレンタカーに当たったのは、なんともご縁だった。1992年ごろ。
当時は米国旅行したときも、たびたび「リーガル」の本国版である「センチュリー」(写真手前)のレンタカーに当たったのは、なんともご縁だった。1992年ごろ。 拡大
その後手に入れた「ビュイック・パークアベニュー」と、当時の筆者。1994年ごろ。
その後手に入れた「ビュイック・パークアベニュー」と、当時の筆者。1994年ごろ。 拡大
GMのアーカイブ写真から。1951年のコンセプトカー「XP300」。
GMのアーカイブ写真から。1951年のコンセプトカー「XP300」。 拡大
1959年「ビュイック・インヴィクタ」。59年といえば、米国車のテールフィンが最高に派手だったモデルイヤー。にもかかわらず、同年のキャデラックと比べて極めて穏やかなムードである。

1959年「ビュイック・インヴィクタ」。59年といえば、米国車のテールフィンが最高に派手だったモデルイヤー。にもかかわらず、同年のキャデラックと比べて極めて穏やかなムードである。
    
    拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。21年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

あなたにおすすめの記事
新着記事