男性版『マイ・フェア・レディ』

『キック・アス』でクロエ・グレース・モレッツが大ブレイクしたのに気をよくしたのか、今回もほぼ新人の若手を抜擢(ばってき)している。ハリーにスパイとしての心得を教わるエグジー役のタロン・エガートンだ。負け犬のチンピラだった彼が紳士のたしなみを身につけ、同時に有能なスパイに成長していく。無名の俳優が大作映画でアカデミー賞俳優の相手役を務めるのだから、役柄と実際の人生がシンクロしている。

この設定は、『007 ドクター・ノオ』のエピソードがヒントになっているそうだ。ガサツな田舎者だったショーン・コネリーを紳士に仕立てるために、テレンス・ヤング監督は彼にいいスーツを着せて高級レストランに連れていった。形が整えば、おのずと中身も変わっていく。映画の中でも名前が出るように、『マイ・フェア・レディ』『プリティ・ウーマン』の男性版なのだ。

ニートのエグジーは街の不良に因縁をつけられて腹を立て、彼の愛車「スバル・インプレッサ」を盗んで暴走する。華麗なドリフトを決めるあたり、なかなかの腕前の持ち主だ。しかし、パトカーに追いかけられてあえなく御用。取調室で思い出したのが、17年前に謎の男から手渡されたメダルだ。裏に記されている番号に電話をかけ、教えられた合言葉を告げると即座に釈放された。

現れたのはハリーである。エグジーの父親はかつての仲間で、彼の身代わりになって命を落としていた。恩人の息子のことを、今も気にかけていたのだ。彼の素質を見抜いたハリーは、父の遺志を継いでスパイになるようにと諭す。連れていったのは、サヴィル・ロウにある高級テーラーのキングスマンだ。ハリーはここで仕立職人として働いていることになっているが、裏に行くと独立諜報(ちょうほう)組織キングスマンの本部につながっている。洋服屋の試着室が秘密の入り口になっていた『0011 ナポレオン・ソロ』へのオマージュだ。

紳士であるということは、優秀なスパイになる条件なのだ。ハリーは「スーツは現代の鎧(よろい)だ」と話す。身だしなみを整えることが大切である。もちろん、靴にもこだわりがある。合言葉は「Oxford, not Brogue.」というものだった。先端にパンチングが施されたBrogueはもともとアウトドア用の靴であり、公式の場にはふさわしくないとされていた。紳士はフォーマルなOxfordを履くべきだというこだわりが表現されている。

(C)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation
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第107回:マナーを身につけた英国紳士は最強のスパイである『キングスマン』の画像 拡大
「スバル・インプレッサWRX STi」
1992年に「レガシィ」よりも小型のモデルとして登場した。WRCに参戦しており、高性能モデルには「WRX」の名が与えられた。映画に登場するのは2代目モデルで、STIが手を加えたバージョンである。
「スバル・インプレッサWRX STi」
	1992年に「レガシィ」よりも小型のモデルとして登場した。WRCに参戦しており、高性能モデルには「WRX」の名が与えられた。映画に登場するのは2代目モデルで、STIが手を加えたバージョンである。 拡大
 
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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