最強の敵は両足が刃物

エグジーがスパイ養成所で試練の日々を過ごしている頃、世界を破滅させる恐ろしい計画が進んでいた。IT長者のヴァレンタインは環境保護を訴える活動家だったが、地球の真の敵は人間であるという結論に達する。人間はウィルスであり、そのせいで地球が発熱していると考えたのだ。一理あると言えなくもないが、人類皆殺しを企てるのでは狂人と言わざるをえない。演じるのがサミュエル・L・ジャクソンだから妙にリアリティーがある。

ヴァレンタインは世界中の有力者や政治家に働きかけ、順調に計画を進めていく。ホワイトハウスらしきところでオバマ的な人と会談する場面も描かれるから、アメリカに対して明らかに悪意がある。それ以上にコケにされるのがスウェーデンだ。字幕ではスカンジナビアとなっていたが、国旗が映っていたからごまかしても無駄だ。スウェーデンの首相がチンケな小物で、ヴァレンタインの計画に協力するという設定になっている。王女は勇ましく抵抗する役なのでバランスがとれているようだが、ラストでの扱い(ホントにひどい!)を見ると監督がスウェーデンのことを嫌いなのだとしか思えない。

ヴァレンタインの邪悪な陰謀を阻止するため、キングスマンは臨戦態勢に入る。彼らの武器は、古きよきスパイの伝統にのっとったエレガントなものだ。ライターは手りゅう弾だし、万年筆からは毒液がしたたる。オックスフォード靴の先端からは鋭い刃が飛び出す仕掛けだ。最も魅力的なのはコウモリ傘。広げれば防弾シールドになるし、マシンガンとしても使える。テーブルの上にビールジョッキがあれば、取っ手を利用して相手にダメージを与えることもできる。

しかし、ヴァレンタインの側近ガゼルがそれを上回る戦闘力を持っている。彼女は両足とも義足なのだ。『マッド・マックス 怒りのデス・ロード』ではフュリオサが義手だったから、美女と人工の手足の組み合わせが流行しているのかもしれない。義足にはドクター中松のジャンピングシューズのように跳ねるバネが仕込まれている。鋭利な刃物も付いていて、健常者なんかよりはるかに強い。身のこなしがいいと思ったら、演じているソフィア・ブテラはマドンナのバックダンサーとして有名な女性なのだそうだ。

 
第107回:マナーを身につけた英国紳士は最強のスパイである『キングスマン』の画像 拡大
(C)2015 Twentieth Century Fox Film Corporation
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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