公用車は自動運転のロンドンタクシー
キングスマンを率いるアーサーには大御所マイケル・ケインが配されていて、ブリティッシュスーツの渋い着こなしが見事だ。コリン・ファースもいつもながらほれぼれするような洗練されたスタイリングである。いかにも頭の悪そうなファッションだったエグジーも、ついにはキメキメのスーツ姿で現れる。
しかし、英国紳士であるということは見た目だけの問題ではない。スコッチならば一口飲んだだけで「1962年のダルモア」と見抜けるだけの経験と知識が必要だ。ヴァレンタインのディナーでビッグマックに1945年のシャトー・ラフィットを合わせるという暴挙に出られても、「ディケムとスポンジケーキも合う」と返せるだけの懐の広さを併せ持たなければならない。
着こなしはトラディショナルでも、装備はハイテク化が進んでいる。メンバーたちがクラシカルなメガネをかけているのは、視力が悪いからではない。VR機能が装備された高性能モニターの役を果たす。全員が集まらなくても、アバターが現れて会議ができる。伝統と先端技術の融合が、現代のスパイの粋なのだ。もちろん、クルマだって同様である。公用車として、黒塗りのロンドンタクシーが使われている。高性能なイメージはあまりないが、キングスマン仕様のモデルは自動運転が可能なのだ。
リーダーの名がアーサーなのは、キングスマンが円卓の騎士の現代版を目指しているからだ。ヴァレンタインに殺されたのはランスロットで、ハリーのコードネームはガラハッドである。エグジーも試練を経て騎士となる。ハリーは「Manners maketh man.(マナーが人を作る、氏より育ち)」と繰り返していた。カミソリで有名なオッカム(のウィリアム)の言葉である。
とは言っても、この映画からご立派な教訓を得ようとするのは間違いだ。景気よくバンバン人は死ぬし、何百もの頭が爆発する。エロいジョークはセクハラすれすれだ。当然のようにR15+指定になっている。それでも映像がポップでスタイリッシュだから、観終わった後に爽快感が残るのだ。ハリーが教会で大暴れするシーンが素晴らしい。「黒人とユダヤ人は地獄で炎に焼かれる!」という説教に歓喜しているような連中だから、成敗されるのは自業自得だ。そして、コリン・ファースの身体能力に感嘆する。彼にはこれからアクションヒーローのオファーが殺到するに違いない。
(文=鈴木真人)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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