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ホンダS660 無限パーツ装着車(MR/6MT)

効果テキメン 2015.09.28 試乗記 佐野 弘宗 ホンダの軽スポーツ「S660」用に、無限(M-TEC)が30品目を超えるスペシャルパーツを開発した。今回は、それらのアイテムを装着した、“無限仕様”のS660に試乗。ノーマル車との走りの違いを報告する。

無限の気合が伝わってくる

1973年の創業時からホンダのモータースポーツ活動やホンダ用カスタムパーツを手がけてきた「無限」は、ホンダのワークス的存在のひとつである(現在の正式社名は株式会社M-TEC)。ホンダのオフィシャル系カスタムパーツではほかに「モデューロ」が有名だが、モデューロはホンダの100%子会社であるホンダアクセス(はカスタムパーツ以外の実用純正アクセサリーも担当する)によるものだ。

モータースポーツの世界ではホンダワークスチームの一角であり、公表されている取引先もホンダの系列企業のみとなる無限=M-TECだが、厳密にはホンダの一部門でも完全な子会社でもない。ただ、無限はホンダ市販車用パーツをベース車両の発売前から開発することが許されている。無限パーツの大半はベース車両と同時発売されて、基本的にホンダ正規販売店で購入・取り付けが可能である。

というわけで、ホンダの四輪車にはなにかしらのカスタムパーツを用意してきた無限が、ホンダとしても久々のスポーツカーである「S660」に、「これこそウデの見せどころ」と他モデル以上に開発の力が入ったことは容易に想像できる。実際、無限のS660用パーツはカタログを目で追うだけでもひと苦労……というくらい多岐にわたるラインナップで、「ほぼ無限コンプリート仕様」といえる今回の取材車では、装着されたパーツ代(工賃や外装パーツの塗装費用を含まず)だけで200万円近い!

すなわち、これと同等の「無限S660コンプリートカー」をオーダーしたとすれば、車両本体を含めての総額で400万円オーバーは必至。価格的には完全に本格スポーツカーということになる。

2015年4月2日、「ホンダS660」の発売と同時に、S660用のチューニングパーツやアクセサリーが無限からリリースされた。今回は、そのパーツ類を多数組み込んだテスト車(以後「無限S660」と表記)をテストした。


	2015年4月2日、「ホンダS660」の発売と同時に、S660用のチューニングパーツやアクセサリーが無限からリリースされた。今回は、そのパーツ類を多数組み込んだテスト車(以後「無限S660」と表記)をテストした。
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「無限S660」のインテリア。「スポーツマット」と名付けられた真っ赤なカーペットは、1万7280円のオプション。
「無限S660」のインテリア。「スポーツマット」と名付けられた真っ赤なカーペットは、1万7280円のオプション。 拡大
写真中央の赤いパーツは、エンジンオイルのフィラーキャップ。アルミ製で、カラーは全5色が用意される。
写真中央の赤いパーツは、エンジンオイルのフィラーキャップ。アルミ製で、カラーは全5色が用意される。 拡大
リアビュー。ディフューザータイプのリアアンダースポイラーは、標準型マフラーと無限スポーツサイレンサー、どちらでも組み合わせ可能。
リアビュー。ディフューザータイプのリアアンダースポイラーは、標準型マフラーと無限スポーツサイレンサー、どちらでも組み合わせ可能。 拡大
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見た目からして戦闘的

S660ではホンダアクセスも同様に力が入っており、以前『webCG』で取り上げた「ホンダS660 α モデューロパーツ装着車」の試乗記をご覧いただければお分かりのように、モデューロブランドでも、内外装から足まわりまで多様なパーツを用意している。

もちろん味つけやデザインセンスは両社で別物だ。たとえば、空力パーツについては、電動可動式スポイラーを筆頭に控えめなモチーフでまとめられるのに対して、無限ではドライカーボン製のリアウイングや、そこかしこに開けられた冷却孔など、いかにもレーシーなイデタチとなるのが好対照である。

数ある無限S660パーツでも、「オープンカーは好きではないが、小型ミドシップ車がほしい」という一部の好き者が色めきそうなのが、モデューロでは用意されないハードトップだろう。実物を観察してみると、左右両端の構造部材にノーマルのソフトトップ用をそのまま活用しつつ、そこに1枚のFRPパネルをわたす……というシンプルな構造である。

取材時点ではまだ試作品とのことで、残念ながら、ハードトップの脱着はできなかった。ただ、その構造やFRPという材質の特性、そしてタルガトップというS660の車体形式を考えると、良くも悪くも、ノーマルの車体剛性バランスを大きく変えるようなものではなさそうだ。これなら、ノーマルサスペンションのままハードトップだけを装着しても、S660本来の味わいをスポイルすることはないと思われる。

フロントフェンダーのパネルも無限オリジナル。ホイールハウスの後方には、スリットが入れられる。
フロントフェンダーのパネルも無限オリジナル。ホイールハウスの後方には、スリットが入れられる。 拡大
ドライカーボン製のリアウイング。UVカットのクリアコートも施されている。
ドライカーボン製のリアウイング。UVカットのクリアコートも施されている。 拡大
FRP製のハードトップ(23万5440円)は、光沢のあるブラックのみ。写真では、秋空に浮かぶ雲が写り込んでいる。その後方に見える、縦スリット入りのエンジンフードも、FRP製のオリジナル品。
FRP製のハードトップ(23万5440円)は、光沢のあるブラックのみ。写真では、秋空に浮かぶ雲が写り込んでいる。その後方に見える、縦スリット入りのエンジンフードも、FRP製のオリジナル品。 拡大
 
ホンダS660 無限パーツ装着車(MR/6MT)【試乗記】の画像 拡大

身のこなしもハッキリ違う

無限自身も「最適化」という言葉を多用していることからも分かるように、無限S660パーツすべてに共通するのは、いい意味でやりすぎておらず、S660本来の美点を損ねていないところだ。

たとえば、ダンパーの減衰力設定はもちろん上がっているはずなのに、連続したギャップに蹴り上げられるシーンでノーマルのほうが快適で安定している以外、総合的な快適性やフラット感に悪化は感じられない。
山坂道では、以前に山田弘樹さんも書いていたように、ムダな挙動が巧妙に省かれた一体感はあるが、それはレーシングカート的な挙動ではまったくない。低速域でもスムーズに作動するサスペンションは、いかにもノーマルより高価で高精度な味わいが確実にある。

とくに印象的だったのは、高速道路でピターっとまっすぐ走ることだ。ノーマルS660でも直進性は悪くないものの、無限はさらに肩の力を抜いてステアリングを押さえるだけでいい感じ。無限のエアロは開発に風洞実験も実施したとのことで、一瞬「これはダウンフォース効果か!?」とも思ったが、今回の主眼は(ミドシップでは不利になりがちな)エンジンルーム換気効果であり、無限広報担当氏によると、ダウンフォースその他の高速安定性はあまり意図していないという。そうなると、この直進性もやはり、滑らかなサスペンションチューンのたまものということだ。

無限も現時点ではS660のエンジンに直接手を加えるメニューは用意しておらず、今回装着されていたのは「スポーツサイレンサー」のほかは細かい吸気系パーツのみ。サウンドは少し勇ましくヌケがいい音質となっていたが、明確な性能の変化はない。

スポーツサスペンションが装着された「無限S660」で、ワインディングロードを走る。
スポーツサスペンションが装着された「無限S660」で、ワインディングロードを走る。 拡大
テスト車のシートは、ベース車両「S660 α」のものと変わらない。シート地は、本革とラックススエードのコンビになっている。
テスト車のシートは、ベース車両「S660 α」のものと変わらない。シート地は、本革とラックススエードのコンビになっている。 拡大
エンジンのアウトプットは、ノーマル車と同じ。現在、無限がラインナップしている、エンジンに関連するアイテムは、エンジンオイルとオイルフィルター、オイルフィラーキャップに限られる。
エンジンのアウトプットは、ノーマル車と同じ。現在、無限がラインナップしている、エンジンに関連するアイテムは、エンジンオイルとオイルフィルター、オイルフィラーキャップに限られる。 拡大
 
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ノーマルにはない「操作感」

シャシー性能は確実にレベルアップしているが、タイヤは銘柄・サイズともノーマルのままだから、性能やスピードが明確に向上しているわけではない。

ただ、今回の無限S660で「運転という行為」そのものを楽しむスポーツカーとして、6MTとブレーキのタッチには「これは!」と思わされるものがあった。6MTには「クイックシフター」が、ブレーキにはスリット入りの「ブレーキローター」や「ブレーキパッド タイプスポーツ」、「ミクロメッシュブレーキライン」などが仕込まれている。

S660は、ノーマルでもMTやブレーキのタッチは丹念につくり込まれた優秀なものだが、手首の返しだけでカキンと決まる無限のシフトはそれ以上の快感だ。ブレーキも、ペダルストロークの剛性感から踏力(とうりょく)によるリニアなコントロール性まで、絶対的な制動力アップ以前に操作性の向上が顕著である。

S660は小さな車体にあらゆる要素がギリギリで詰め込まれていて、ノーマルでも、あらゆるディテールにウンチクが満載の超エンスーなクルマである。カスタムパーツの開発でも、おそらくは性能や機能のアップ以前に「変えることすら難しい」という局面が多かったと想像される。それでも、これだけの独自性を出すことに成功したのだから、素直に、無限はいい仕事をしていると思う。

もっとも、今回の取材車のように総額400万円以上で、自分のS660をいきなり無限コンプリートで仕立てるのは、一般的にはハードルが高いだろう。ちなみに、スポーツサスペンションのみなら17万円強、個人的にオススメしたい6MT関連なら「カーボンシフトノブ」も含めて合計4万円弱、そしてブレーキはフルメニューでも15万円弱……というパーツ代で、それぞれ無限仕様にすることが可能だ。このうちのどれかひとつでも、フンパツすれば、それ相応の満足感はある。

(文=佐野弘宗/写真=田村 弥)

「MD8」と名付けられた、8スポークのアルミホイール。サイズは前後異径で、フロントが15インチ、リアは16インチ。
「MD8」と名付けられた、8スポークのアルミホイール。サイズは前後異径で、フロントが15インチ、リアは16インチ。 拡大
 
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アルミニウムにカーボンを積層させた、無限オリジナルの「カーボンシフトノブ」(写真左)。テスト車には、シャフトそのものの形状を変えつつシフトストロークも短縮させた「クイックシフター」が装備されていた。
アルミニウムにカーボンを積層させた、無限オリジナルの「カーボンシフトノブ」(写真左)。テスト車には、シャフトそのものの形状を変えつつシフトストロークも短縮させた「クイックシフター」が装備されていた。 拡大
標準車と同じメーターパネル。デジタル式の速度計が組み合わされる。左下に見えるSELECTボタンを押すと、ディスプレイの色調が赤に変わる。(写真をクリックすると、表示切り替えの様子が見られます)
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テスト車のデータ

ホンダS660 無限パーツ装着車
 (ベース車:S660 α)

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1180mm
ホイールベース:2285mm
車重:830kg
駆動方式:MR
エンジン:0.66リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:64ps(47kW)/6000rpm
最大トルク:10.6kgm(104Nm)/2600rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)195/45R16 80W(ヨコハマ・アドバンネオバAD08R)
燃費:21.2km/リッター(JC08モード)
価格:218万円/テスト車=--万円
オプション装備:--
装着部品:フロントアンダースポイラー(5万5080円)/サイドスポイラー&リアエアロフェンダー(19万4400円、塗装費別)/リアアンダースポイラー(5万760円)/フロントスポーツグリル(6万2640円)/リアウイング<ドライカーボン製>(16万2000円)/フロントエアロフェンダー(8万6400円、塗装費別)/エアロエンジンフード(13万8240円、塗装費別)/エアロボンネット(12万7440円、塗装費別)/ハードトップ(23万5440円)/スポーツサイレンサー<カーボンフィニッシャータイプ>(17万640円)/ハイパフォーマンスオイルエレメント(2808円)/エンジントリートメントオイルMT105(5184円)/ヘキサゴンオイルフィラーキャップ(9180円)/スポーツサスペンション(17万640円)/アルミホイール「MD8」<フロント用、15×5 1/2Jインセット45>(3万1320円/1本)/アルミホイール「MD8」<リア用、16×6 1/2Jインセット50>(3万2400円/1本)/ホイールナット&ロックセット(7020円)/ブレーキパッド「タイプ スポーツ」<フロント左右セット>(2万520円)/ブレーキパッド「タイプ スポーツ」<リア左右セット>(1万9440円)/ブレーキローター<フロント左右セット>(3万3480円)/ブレーキローター<リア左右セット>(3万3480円)/ミクロメッシュブレーキライン<1台分4本セット>(3万2400円)/ハイパフォーマンスブレーキフルード(3240円)/クイックシフター(2万4840円)/カーボンシフトノブ(1万2960円)/スポーツマット<フロント2枚セット>(1万7280円)/カーボンルームミラーカバー<ドライカーボン製>(1万1880円)/ハイドロフィリックミラー(2万520円)/カーボンナンバープレートガーニッシュ<ドライカーボン製>(1万584円)/ナンバープレートボルト<2本セット>(2484円)

テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:6822km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:344.9km
使用燃料:35.5リッター
参考燃費:9.7km/リッター(満タン法)/15.4km/リッター(車載燃費計計測値)

ホンダS660 無限パーツ装着車
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ホンダS660 無限パーツ装着車(MR/6MT)【試乗記】の画像 拡大
シフトレバーの前方の小物入れ。さまざまな電子機器を接続するための端子類も用意される。
シフトレバーの前方の小物入れ。さまざまな電子機器を接続するための端子類も用意される。 拡大
フロントボンネット下には、ユーティリティーボックスと呼ばれる、荷物の収納スペースが確保される。標準車では、取り外したソフトトップがここに収まることになる。
フロントボンネット下には、ユーティリティーボックスと呼ばれる、荷物の収納スペースが確保される。標準車では、取り外したソフトトップがここに収まることになる。 拡大
 
ホンダS660 無限パーツ装着車(MR/6MT)【試乗記】の画像 拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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