同じ“魂動”でも環境が違えば出てくるものも違う

「『魂動』デザインは日本の美意識に基づいたもの。引き算の美学ともいえます。極限まで研ぎ澄ました凜(りん)としたたたずまい。そして色気の艶(つや)。この凜と艶という、相反するものを組み合わせたものです」とデザイン アシスタントマネジャーの岩内義人氏は語る。コンセプトカーである越 KOERUは、ヨーロピアンR&Dセンターによる提案であるが、考え方そのものは、日本のデザインスタジオとまったく変わらないという。

「それでも、日本を出て初めて分かる気づきもあります。日本らしさって何だろう? それに対する欧州ならではの視線もあります。彼らいわく、“軽い”というのです。素材をいろいろ使うからでしょうね」

「国によって空の色がまったく違います。色の見え方が違う。それに、まわりにある競合車も日本とは違います。そうした中で、いかに際立つ造形を作ることができるか、日々苦労しています」というのはモデリング マスターモデラーの石本悠二氏だ。モデラーとは、デザイナーの描いたイメージ図を、クレイ(粘土)を使って立体的な造形に変換させる人である。当然、モデラーの腕前によって完成車の出来栄えは大きく左右される。そのため、マツダはモデラーを大切にし、デザイナーと同格に扱うという。また効率アップのためにデジタル化が進む風潮の中、デジタル処理ではなく、従来通りにクレイでの造形生成を優先させる姿勢を守っている。

越 KOERUのチーフデザイナーである小泉 巌氏は、フランクフルトモーターショーの会場で「マツダはデザインプレミアムを目指したいと思っています」と語っていた。価格やヒエラルキーが高いのではなく、デザインのバリューが高い、優れたデザインで評価されるブランドになりたいというのだ。そうした目標が、モデラーを大切にする姿勢につながっているのではないだろうか。

また、こうした取り組みもあって、欧州におけるマツダデザインに対する評価は徐々に高まっているという。2015年のジャーマン・デザイン・アワードでは、日本ブランドとして初の「チーム・オブ・ザ・イヤー2015」を獲得。レッド・ドット・デザイン・アワードでは「MX-5(日本名:ロードスター)」がベストカー賞を獲得している。そして、ヨーロピアンR&Dセンターの最新の成果である越 KOERUについても、特に現地メディアの間でポジティブな意見が多かったという。

デザインと走りにおいて、欧州の開発拠点であるヨーロピアンR&Dセンターがいかにマツダに貢献しているか。それがよく分かる取材であった。

(文=鈴木ケンイチ/写真=鈴木ケンイチ、マツダ)
 

「魂動デザイン」について説明するデザイン アシスタントマネジャーの岩内義人氏。
「魂動デザイン」について説明するデザイン アシスタントマネジャーの岩内義人氏。 拡大
クレイを削る作業を実現してみせる、モデリング マスターモデラーの石本悠二氏。
クレイを削る作業を実現してみせる、モデリング マスターモデラーの石本悠二氏。 拡大
「越 KOERU」のチーフデザイナーを務めた小泉 巌氏。
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近年のマツダが受賞した世界各国のデザイン賞を紹介する岩内氏。
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