フォード・フォーカス スポーツ+ エコブースト(FF/6AT)
タイトル奪回なるか 2015.10.23 試乗記 大規模なマイナーチェンジを受けた「フォード・フォーカス」に試乗。1.5リッターのエコブーストエンジンや、よりしなやかなサスペンションなどによってフィジカルを高めた最新型は、ライバルから“ハンドリング王”のタイトルを奪回できるのか?最新の“フォード顔”にフェイスリフト
フォーカスの今回のマイナーチェンジの主眼は、見てのとおり、顔まわりの刷新。いわゆる“フェイスリフト”である。最新の「フィエスタ」や「マスタング」に通じる、大型台形グリルと張りのあるボンネット(パワードームという)を組み合わせた最新のフォード顔になったのが、新しいフォーカス最大のニュースである。
現行の3代目フォーカスは日本発売からまだ2年半しかたっていないが、国際的には2010年秋に発表、翌11年初頭から順次発売されてきた。つまり、正確にはデビューから5年目のテコ入れということである。
最新フォード顔(公式には“ニューデザインランゲージ”と呼称する)を初採用した市販車は4代目「モンデオ」(北米名は2代目「フュージョン」)で、それは3代目フォーカスから間もない2012年秋に発売された。つまり、3代目フォーカスはそれ以前のフォードデザイン(キネティックデザイン)の集大成的な存在だったわけで、最新フォード顔への移行に少しばかり時間が必要だったのは、まあ仕方のない面もあるだろう。
前記のように、現行フォーカスは国際デビューからそれなりの年月が経過しているわけで、今回の手直しはフェイスリフトにとどまらない。フェイス以外の内外装デザインに大幅な変更はないが、それ以外の部分には徹底して手が入っている。
後述するパワートレインはもとより、大型液晶タッチパネルを中心としたマイフォードタッチも新しくなり、シャシー関連のチューニングは全面的に見直されているという。
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柔軟性に富んだ1.5エコブースト
パワートレインも、まるごと変更された。これまでの2リッター自然吸気+6段ツインクラッチ(DCT)から、1.5リッター4気筒直噴ターボ(エコブースト)+トルクコンバーター(トルコン)式6段AT……と、エンジンも変速機も総とっかえである。
この1.5エコブースト+6ATのコンビは、国際的にも今回のマイチェンで新登場したもの。厳密な排気量も1497ccなので、日本の自動車税制でもきっちりとメリットが享受できるダウンサイジングターボだ。これまでも、一部市場で1リッター3気筒のエコブーストのフォーカスもあったのだが、MTしかなかったのが日本導入へのハードルだった。
従来の2リッター比で10psアップとなる最高出力(180ps)はクラストップの値だが、24.5kgmの最大トルクは、他社の1.2~1.4リッターターボとほぼ同等。で、設計年次としてはクラスで古参に類するフォーカスの車重は、例えば「フォルクスワーゲン・ゴルフ」や「プジョー308」などのライバルと比較すると100kgほど重い。結果として、実用域の体感動力性能はライバルと同等、もしくは少しおっとり系……というのが正直なところだ。
ただ、洗練性や柔軟性は素晴らしい。大きめの排気量で無理にトルクを絞り出していないこともあってか、過給ラグ的なものがまったくといっていいほど感じられない。「まるで自然吸気のような過給エンジン」とはもはや使い古された表現だが、1.5エコブーストはまさにそれの最上級である。
もちろん、DCTより融通のきくトルコンATの恩恵も大きいのだろう。「減速すると見せかけて……の、急な再加速」といったDCTがどうしてもギクシャクしてしまうシーンなどでも、新しいフォーカスの変速は滑らかそのもの。一時はATを駆逐するかのように思われたDCTだが、フォードのみならず、最近トルコンAT回帰の機運が見られるのは興味深い。
懐の深い足まわり
自慢のシャシー性能は、もう、感動的にステキになった。私にはほとんど文句をつけるところがない。今回はスプリングやショックのリチューンから静粛対策まで手直しされたというが、最近のロール剛性ガッチリ系とは一線を画して、それなりにピッチングやロールを感じさせつつ、しなやかに荷重移動する基本特性は変わっていない。
まあ、最新のCセグメント車の経験が多い人のなかには、このフォーカスに乗って「おっとりしすぎていて、なんか重ったるい」と感じてしまう向きもあるかもしれない。ただ、私にいわせれば、それは最近ハヤリのミズスマシ水平コーナリング至上主義……に洗脳されてしまっているからだ。
実際のフォーカスの身のこなしは正確無比で、敏感ではないが相応に鋭い。最近は加減速やステアリング操作できちんと上屋が動くフォーカスのような味わいを嫌う風潮もあるが、そうやってタイヤにしっかりと荷重をかけないと、手やお尻から伝わるグリップも希薄になるのだ。フォードはそこをちゃんと分かっている。
フォーカスのシャシーはとにかくフトコロが深い。ある程度ロールしてからが本領発揮。コシのあるダンピングで荒れた路面でも進路は乱されず、リアサスも十二分に限界が高いのだが、決して踏ん張りすぎず、ヨーコントロール性も素晴らしい。
また、2年半前の日本発売時に、ここで指摘させていただいたパワステも、今回は見事に改良されて、もう文句なしの絶品といってよい。操作力は従来より明確に重くなったが、それがジワッとゆったり反応するシャシーのリズムにドンピシャ。走りだして最初のコーナーから、ステアリング操作が一発で決まる。
十分に頑張った価格設定
タイムラグなく反応して速度微調整もやりやすい新パワートレインがまた、シャシーに見事にマッチしている。絶対的な動力性能には、前記のように特筆すべきアドバンテージはない(し、車重のせいか燃費もトップとはいえない)が、高速から山坂道をさんざん走った後で、「あら、やけにアベレージスピードが高くなっちゃった」とうれしい驚きがあるタイプといえばいいだろうか。
価格は上級フル装備グレードの「スポーツ+」で349万円。額面では宿敵ゴルフより明らかに高いが、フォーカスのスポーツ+はレーダークルーズコントロールや低速オートブレーキ、自動パーキングシステムに、電動レザーシートまで標準装備。また、標準のタッチパネルに、日本のナビ機能も内蔵(オプション)できるようになったのも、実際にフォーカスの購入を検討している人には、飛び上がりたくなるくらいの朗報だろう。
ちなみに、フォーカスと同等性能のゴルフの「TSIハイライン」に、オプションを追加してフォーカスのスポーツ+と装備レベルをそろえると、わずかだがフォーカスのほうが安いのだ。まあ、クルーズコントロールやオートブレーキ機能はゴルフのほうが少し高度なので、素直にフォーカスが割安……とはいいきれないが、日本ではどう考えても大量販売の見込めない(失礼)フォーカスとしては十分に頑張った設定と評価したい。
いずれにしても、フォーカスに心ひかれるマニアには、そんなことは、吹けば飛ぶような小さいハナシである。ここ2年ほどのゴルフや308の登場で、少しばかり心もとなくなっていた“ハンドリング王”の座も、今回のマイチェンでフォーカスのものになった……と私は断言したい。そのうえで、この商品力と価格設定である。ほかに、なんの不満があるんですか!?
(文=佐野弘宗/写真=小河原認)
テスト車のデータ
フォード・フォーカス スポーツ+ エコブースト
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4385×1810×1470mm
ホイールベース:2650mm
車重:1420kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:180ps(132kW)/6000rpm
最大トルク:24.5kgm(240Nm)/1600-5000rpm
タイヤ:(前)215/50R17 91W/(後)215/50R17 91W(ミシュラン・プライマシーLC)
燃費:14.3km/リッター(JC08モード)
価格:349万円/テスト車=359万4992円
オプション装備:ボディーカラー<ウィニングブルー Me>(7万円) ※以下、販売店オプション フロアマット(2万1600円)/ETC車載器(1万3392円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2031km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター
参考燃費:--km/リッター
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。