スマート・フォーフォー パッション(RR/6AT)
クルマの基本ができている 2016.01.26 試乗記 新しい顔を得て、立派に生まれ変わった新型スマートシリーズ。その本命ともいえる4人乗りの「フォーフォー」に試乗した。ドイツからやってきた新しいシティーコンパクトは、こんな人にお薦めだ。今度は独仏合作
久しぶりにスマート・フォーフォーに乗った。2004~2007年に売られていた初代にいつ乗ったかはっきりとは覚えていないが、登場直後の04年だとすると、11、12年たっていることになる。初代はその当時提携していた三菱自動車のコンパクトカー、「コルト」とプラットフォームを共有するモデルだった。しかし販売中にダイムラーと三菱自動車が提携を解消してしまったこともあり、初代はひっそりと市場から消えたかたちとなった。僕自身、どんなクルマだったか思い出せない。
新型フォーフォーも他社との共同開発だ。今度の相手はルノー。同社のコンパクトカー「トゥインゴ」とプラットフォームを共有する。そもそもスマートは、その始まりからして時計ブランドのスウォッチとのジョイント企画だった。登場したころには解消していたけれど。どこかと組むのがスマートのDNA、あるいは運命なのかもしれない。
トゥインゴとは姿かたちもほぼ同じで、メカニカルツインと言っていいレベル。トゥインゴは東京モーターショーで日本のファンにお披露目されたが、発売はまだ。両者で細かい仕様がどう異なるのか、価格はどれくらい違うのか、いろいろ気になるが、まもなくわかるはずだ。
どこまで望むべきか
まず外観を見てみよう。フォーフォーは「フォーツー」のストレッチ版といって差し支えない。犬顔なので、胴の長いフォーフォーはダックスフントのようだ。ボンネット部分が盛り上がっているので、フロントエンジンのように見えるが、リアエンジン・リアドライブ方式を採用する。テスト車でいうと白く塗装されている部分がスマート自慢の「トリディオン・セーフティ・セル」。これは初代から使われている強度の高い骨格を使って安全性を確保する設計手法の名前で、このおかげでほとんど前後オーバーハングがなくても高い衝突安全性を確保できているという。
乗り込んでみよう。「パッション」というグレードのテスト車のインテリアはブラック基調。光沢を抑えたシルバーの加飾パーツがアクセントとして用いられているものの、全体的に地味だ。半面、デザインはポップ。ほとんど直線は見られず、円や楕円(だえん)が連続する。エアコン吹き出し口はインパネから飛び出してくるようで楽しい。オプション装着されたオンダッシュのカーナビモニターだけが味気ない長方形で悪目立ちしていたのは残念。同じ場所にスマートフォンをセットするクレードルも用意されているので、機能はともかく見た目はそっちの方がいいんじゃないだろうか。
運転してみよう。パワートレインは1リッター3気筒エンジン(最高出力71ps/6000rpm、最大トルク9.3kgm/2850rpm)と6段デュアルクラッチ・トランスミッションの組み合わせ。車両重量は1005kg。街中を転がすにはもう少しトルクが欲しいところ。トランスミッションの特性をエコとスポーツから選ぶことができ、スポーツに入れておけば多少元気になるが、それでもキビキビと表現できるほどでもない。いかにもキビキビ、スイスイ走りそうな見た目なので、期待しすぎてしまうのかもしれない。
また、ブレーキペダルから足を離してアイドリングストップから再始動させる際、一瞬の間があってからの始動となってリズムよく発進しにくいことがあった。加えて、アフォーダブルなことが魅力のスマートに過剰な洗練を求めるべきではないのは重々承知だが、エンジン再始動時の振動はもう少し抑え込んでほしい。
剛性感の高さが違う
パワーと車重の関係は日本のターボ付き軽自動車に近い。振動やアイドリングストップの制御など、パワートレインの洗練性においては軽自動車の方が上回っている部分もある。スマートが圧倒的に上回っているのは、体に感じるボディー剛性の高さとそのことがもたらす乗り心地のよさ。といっても、ふわふわとソフトライドなわけではなく、高速巡航時のフラットネスが優秀なのだ。サスペンションセッティングが絶妙で、とにかく路面からの外乱に影響されにくい。軽自動車だと予期せず段差を乗り越えた際などにガツンと低級な衝撃を受けて興ざめすることがあるが、そんな場合にもスマートだとサスペンションがうまく受け止め、素早く収束させてくれる。
前にエンジンがないためか横風の影響は受けやすいものの、80km/h以上で走行中に横風で車両が不安定になった場合、横滑り防止装置が最適制御されるなど、きちんと対策が施されている。だから速度を上げるのに多少もたつくが、ひとたび速度を上げてしまえば車体サイズを忘れてしまうほど快適なクルージングが可能だ。
ステアリングポストの剛性感が高く、安心感がある。ステアリングホイールは前後および上下の調整しろがたっぷりあるので、理想のドライビングポジションを獲得することができた。また視界は前後ともに良好で、斜め後方の死角も少ない。長時間運転を苦にしないのは、ボディーが堅牢(けんろう)で足まわりのセッティングが適切なだけでなく、運転環境がよいからでもあるはずだ。基本ができている。
本命は遅れてやってくる?
フロントタイヤの切れ角が大きく、実に小回りが利く。最小回転半径4.1mは4ドアハッチバックとしては最も優秀だそうだ。ラゲッジスペースはリアシートを立てた状態では185リッターとミニマムだが、分割可倒式(50:50)のシートを両方倒せば975リッターだからふたりでゴルフや旅行に行けないことはない。リアシートは天井が低く若干の圧迫感はあるが、足元のスペースは十分で、大人4人のロングツーリングもそつなくこなすはずだ。
便利で快適なフォーフォーだが、割り切るところは割り切っている。例えばボンネットフードにはヒンジがない。ボディーとフードはひもでつながっているだけ。頻繁に開ける必要がないのでこれでよいという判断だろう。またリアドアのウィンドウが上げ下げできず、ポップアップするだけ。これだってエアコンがあるのでさほど不便ではない。実家に帰省し、また自宅へ戻る際などによくあるシチュエーションだが、ゆっくり動きだすフォーフォーのリアに座る孫に向かって、おじいちゃんが車外から手を振っても、孫は窓を開けて応えることができないので、おじいちゃんが「うちの孫、意外にドライだな」と落ち込むかもしれないといった程度の問題でしかない。
そうした割り切りのおかげもあってか、フォーフォーはパッションが209万円、上級の「プライム」が229万円となかなか競争力のある価格で売られる。
試乗を終えて振り返ってみると、パワーがもう少しあればな……ということ以外に気になった点はない。燃費は実測で14.0km/リッター。可もなく不可もなくといったところか。本国では0.9リッター直3ターボ(最高出力90ps、最大トルク13.8kgm)搭載車も選べる。日本にもそのうち入ってくるだろう。そっちが本命ではないだろうか。あんまり高いと話は変わってくるにせよ。
(文=塩見 智/写真=小河原認)
テスト車のデータ
スマート・フォーフォー パッション
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3495×1665×1544mm
ホイールベース:2494mm
車重:1005kg
駆動方式:RR
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ
トラスミッション:6AT
最高出力:71ps(52kW)/6000rpm
最大トルク:9.3kgm(91Nm)/2850rpm
タイヤ:(前)165/65R15 81H/(後)185/60R15 84T(ダンロップ・スポーツ ブルーレスポンス)
燃費:--km/リッター
価格:209万円/テスト車=234万4900円
オプション装備:ベーシックパッケージ<パークトロニック[リア]、プライバシーガラス[後席左右・リアウィンドウ]、シートヒーター[前席]、iPadホルダー取り付け用ソケット[運転席・助手席後部]>(9万円)/メタリックペイント(3万3000円)、スマートベーシックキット<ETC車載器、フロアマット、スマート カラビナ[オレンジ/ブルー 2個セット]>(3万2000円)/ポータブルナビ(9万9900円)
テスト車の年式:2015年型
テスト開始時の走行距離:2252km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:158.4km
使用燃料:11.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:14.0km/リッター(満タン法)/13.9km/リッター(車載燃費計計測値)
