アルファ・ロメオ・ジュリエッタ クアドリフォリオ ヴェルデ(FF/6AT)
お姉ちゃんに期待! 2016.02.12 試乗記 新旧の「ジュリエッタ」に、共通する味わいはあるのか? 初代のオーナーだったリポーターが、ミドシップスポーツ「4C」のエンジンを受け継いだ高性能グレード「クアドリフォリオ ヴェルデ」で軽井沢を目指した。歴史あるブランドの故事来歴をまとう
かつて「アルファ・ロメオ・ジュリエッタ スプリント」に乗っていたことがある。1959年式の初代モデルだ。山の中で動かなくなってしまったりして苦労は多かったが、スタイルもエンジン音も大好きだった。この3代目ジュリエッタは初代とはまったく別物だが、名前だけでどうしてもシンパシーを抱いてしまう。
初代は量産車メーカーとして発展する手がかりとなるモデルとして歴史に名を刻んだ。今やアルファ・ロメオは立派なプレミアムブランドへと発展している。ジュリエッタは激戦のCセグメントに属しているが、「フォルクスワーゲン・ゴルフ」よりちょっと高めのラインが狙いだ。「クアドリフォリオ ヴェルデ」は最上級バージョンで、かつてタルガフローリオなどのレースで幸運を呼ぶしるしとして使われた四つ葉のクローバーを意味している。
ベーシックグレードのエンジンが1.4リッターなのに対し、クアドリフォリオは1.7リッターだ。いや、1750エンジンと言わなければならない。名車「6C 1750」にちなみ、アルファ・ロメオでは伝統的にそう呼びならわされてきた。歴史のあるブランドというのは故事来歴の宝庫であり、しきたりや決まりごとに覆い尽くされている。
最高出力は「ゴルフGTI」を20ps上回る240psで、期待通り力強い加速を見せる。ツインクラッチ式トランスミッションの「アルファTCT」はスムーズで破綻がない。「156」にセレスピードが採用された頃はシフトダウンでの派手な演出に驚かされたものだが、アルファ・ロメオも大人になった。ひけらかすところはなく、真面目で実用的だ。
ならばゴルフにすればいいではないかと言われては困る。リアドアには156に淵源(えんげん)を持つ隠しドアノブを使い、5ドアハッチバックボディーにクーペライクな美しさを与えている。内装は素材こそ硬質で実質本位だが、黒と茶で構成されたインテリアはスポーティーさとエレガントさを併せ持つすてきな意匠だ。
つらつら書き連ねながら、少しだけ心に引っかかりがあることを自覚している。初代のオーナーだった身としては、何か理屈を超えて夢中になれる妙味のようなものを求めてしまうのだ。細かい振動やロードノイズが気になったのはウインタータイヤを装着していたことを割り引かなければならないが、エンジン音に艶っぽさを感じなかったことには関係ないはずだ。クルマに女性性と男性性を重ねあわせたような艶(なまめ)かしさを求めるのは、時代に取り残されたジジイのたわごとなのだろうか。
昨年アルファ・ロメオは、新型「ジュリア」を発表した。初代でもジュリエッタの後にジュリアが登場している。ジュリエッタは“小さなジュリア”を意味するから順番が逆なのだが、妹の後に満を持して姉がステージに立つ。ジュリアはFR(あるいは4WD)のDセグメントセダンで、ここから本格的にプレミアム路線を突き進むことになるようだ。お姉ちゃんにはぜひともアルファ復活の旗手となってもらいたい。ただ、価格帯が相当上がってしまいそうだから、手頃な値段でアルファ・ロメオを手に入れるのは今がラストチャンスかもしれない。
(文=鈴木真人/写真=高橋信宏)
【スペック】
全長×全幅×全高=4350×1800×1460mm/ホイールベース=2635mm/車重=1440kg/駆動方式=FF/エンジン=1.7リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ(240ps/5750rpm、30.6kgm/1850rpm ※ダイナミックモード選択時は34.7kgm/2000rpm)/トランスミッション=6AT/燃費=10.8km/リッター(JC08モード)/価格=425万5200円
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。