日本製SUVに乗る犯罪者たち

ニックたちに嫌がらせを仕掛けてきた地元のチンピラのことをエスコバルに話すと、なぜかしばらくして彼らは姿を現さなくなった。結構エグい方法で惨殺されていたのである。エスコバルは家族を大切にする。かわいい姪の恋人なら、息子も同然だ。全力で守る必要がある。家族に害を与える者たちには、断固とした態度で制裁を加えるのが正しい。

犯罪者集団というのは、洋の東西を問わずこういう考え方をする。内と外を厳格に分け、疑似家族を形成するのが常法だ。日本でも “なんとか一家”を名乗る団体が多く存在する。ボスは家族にとっては優しく懐の深い親父さんだが、外部に対しては容赦のない冷血ぶりを発揮する。『ゴッドファーザー』ではマフィアの残虐な行為とともに、ファミリーの中での愛と悲しみが描かれた。マーロン・ブランドの演じたドン・コルレオーネは、冷血な犯罪者であるとともに慈しみ深い父でもあった。

同じ系譜に属するエスコバルを、この映画ではベニチオ・デル・トロが演じている。素晴らしいキャスティングだ。考え深げな表情の中に、油断のならない目の光を宿す。満面の笑みのように見えても、どこか悲しげな顔でもある。彼は常に多面性を持っていて一義的な解釈を許さない。同じ題材を扱った映画ではハビエル・バルデムがエスコバル役を務めることになっていて、こちらも適役だ。日本人なら勝新太郎か原田芳雄あたりがいいと思うが、残念ながらふたりとも鬼籍に入ってしまった。現役なら、佐藤浩市か安田 顕というところではどうか。

ベニチオ・デル・トロは『チェ 28歳の革命』『チェ 39歳 別れの手紙』ではチェ・ゲバラを演じていた。立ち位置は全然違うが、彼もエスコバルも強いカリスマ性を持つ中米の英雄であることは共通している。違うのは体重で、今回は腹回りが巨大だ。やせていたゲバラ役の時と比べると、50kgぐらい重くなっているかもしれない。

次第に深みに入り込んでいったニックは、エスコバルから重要な任務を任される。ピストルを渡された彼は、「トヨタ・ランドクルーザー」に乗って仕事に向かう。ほかの連中が乗っているのもランクルが多く、さらには「トヨタ・ハイラックス」「日産パトロール」「三菱モンテロ」など、出てくるクルマは日本製のSUVやトラックだらけだ。実際にかの地では性能と価格が評価されているのだろう。犯罪に使われるのは困りものだが、パトカーが「日産サニー」だったからバランスはとれている。

(文=鈴木真人)

「トヨタ・ランドクルーザー」

「トヨタ・ジープBJ型」に起源を持つヘビーデューティーSUV。高い走破性と耐久性から、最も信頼のおける実用車として世界中で高い評価を受ける。映画で使われている60系は、1980年代に生産されていたモデル。


	「トヨタ・ランドクルーザー」

	「トヨタ・ジープBJ型」に起源を持つヘビーデューティーSUV。高い走破性と耐久性から、最も信頼のおける実用車として世界中で高い評価を受ける。映画で使われている60系は、1980年代に生産されていたモデル。
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『エスコバル/楽園の掟』

2016年3月12日(土)シネマサンシャイン池袋他全国順次公開

配給:トランスフォーマー


	『エスコバル/楽園の掟』

	2016年3月12日(土)シネマサンシャイン池袋他全国順次公開

	配給:トランスフォーマー
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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