あのランボルギーニも

チェラーティ氏は本業と両立しているので、あまり比較には適切ではないものの、チェラーティ氏の話を聞いてボクが思い出したのは伊丹十三監督の1985年映画「タンポポ」だ。人気のないラーメン店を再建するそのストーリーに登場する元・産婦人科医は、自ら経営する病院を夫人と事務長に乗っ取られてもなお、食い道楽を極めようとしていた。

筆者の周囲でも、自動車業界など工業界にいた人が、いきなり食べ物や飲み物を作り始めてしまい、ときとしてプロになってしまったという話をときおり耳にする。
その代表といえば、同じエミリア-ロマーニャ出身で、今年生誕100年を迎えたフェルッチョ・ランボルギーニ氏だろう。彼はスーパースポーツカー製造から身を引いたあと、58歳のとき手に入れたブドウ農園に引っ越してワイン作りを始めた。最初は地元の協同組合の貯蔵庫に入れていたが、満足できずに、やがて自分の貯蔵庫をしつらえた。そうして作ったワイン「ミウラの血」は、イタリアはもちろん、海外でも好評をもって受け入れられたという。

工業に携わった人は食品業界の人々と同様に研究熱心である。同時に、前工程を完璧にこなすほど後工程の完成度が高くなることを、身をもって知っている。
フェルッチョ・ランボルギーニ氏は、ワイン製造にあたって、イタリア屈指の醸造学者を顧問として迎えたという。チェラーティ氏がサーモンの漬け方にこだわるのも、「後工程である薫製の出来を左右するから」と説明する。

毎年世界各地のモーターショーでは、さまざまな自動車関係の人々に会う。その中には話しているうちに、気がつくとクルマよりも食べ物の話で盛り上がっている人がいる。その知見の広さに、ボクは「この人は、実はクルマよりも、もっと好きなものがあるんじゃないか?」と思うことがある。チェラーティ氏やフェルッチョ氏に続く予備軍は、それなりに潜伏していると踏んでいるボクである。

(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、UP STREAM italiana) 

「アップストリーム・イタリアーナ」社のカタログから。
スモークド・サーモンに魅せられ、ついに仕事にしてしまったクラウディオ・チェラーティ氏。
「アップストリーム・イタリアーナ」社のカタログから。
	スモークド・サーモンに魅せられ、ついに仕事にしてしまったクラウディオ・チェラーティ氏。 拡大
チェラーティ氏が主宰するアップストリーム・イタリアーナ社のスモークド・サーモン。高級食材店&食堂がターゲットだけあって、パッケージもモダンである。
チェラーティ氏が主宰するアップストリーム・イタリアーナ社のスモークド・サーモン。高級食材店&食堂がターゲットだけあって、パッケージもモダンである。 拡大
再びカタログから。チェラーティ氏の熱演は続く
再びカタログから。チェラーティ氏の熱演は続く 拡大
アップストリーム・イタリアーナ社のスタンドにて。デモンストレーターとチェラーティ氏。
アップストリーム・イタリアーナ社のスタンドにて。デモンストレーターとチェラーティ氏。 拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。21年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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