鉄製ならではの荒技も
個人的かつ後ろ向きなポイントばかり列挙してしまったが、実はカランダッシュには最強のチャームポイントがある。スチール製であることだ。ボディーが強固なことによるすぐれた保持力は、何ものにも代えがたい。
実は、その“しっかり感”には、出張先でかなり助けられている。ヨーロッパの食品のパッケージは、開け口があったところで加工精度が低く、日本のようにペロリと開かないことが多い。ハム、カットフルーツなどなど……特にイタリアの容器は、6割がた、一発では開けられない。
そうしたとき、このカランダッシュのスチールボディーを容器にブスッと突き刺して突破口を作るのである。もちろん芯は痛めないように引っ込めておく。
また、ボクは旅先でもビタミンC補給のため柑橘(かんきつ)類をできるだけとるようにしている。その際も、カランダッシュが役に立つ。皮が固いオレンジなどに突き刺し、手でむくきっかけを作るのだ。
もはや、スイスのアーミーナイフならぬ「アーミーボールペン」である。
ただし、こうした使い方は明らかにメーカー保証範囲外(参考までに、スイス国内においてカランダッシュは、正しい使い方をしていた場合に限って永久保証をうたっている)になるので、マネはおすすめしない。
それに、そういう使い方をしていたおかげで、ボクは恥ずかしい思いをしたことがある。
ショー会場で重要な人物にインタビューした際、カランダッシュを使おうと思ったら、芯の出が悪い。カチャ、カチャ。刑事物の撃ち合いで、悪役の持つピストルの銃弾が突然切れて「ち、ちくしょーッ!」と捨てる、あのシーンが脳裏をよぎった。
それでも必死でノックすると、その朝むいて食べた、オレンジの皮のカスがポロっと排出された。相手が見ていなかったことを願うのみだった。
こんな調子のボクだから「筆記具好き」ではあるものの、愛好家を名乗るのは少々気が引けるのだ。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>)

大矢 アキオ
コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。20年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』、『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。
-
NEW
BMWアルピナD3 Sリムジン アルラット(4WD/8AT)【試乗記】
2021.3.2試乗記アルピナが提案するディーゼルの高性能セダン「D3 Sリムジン アルラット」に試乗。そのステアリングを握った筆者は、どこか懐かしくも目を見張る、このブランドならではのパフォーマンスに酔いしれたのだった。 -
ルノー・キャプチャー VS. フォルクスワーゲンTクロス VS. プジョー2008
2021.3.1欧州での人気が証明するルノー・キャプチャーの実力<AD>欧州のベストセラーSUV「ルノー・キャプチャー」の新型が日本に上陸。BセグメントSUVのライバルとしてしのぎを削る「フォルクスワーゲンTクロス」、そして「プジョー2008」と乗り比べ、超激戦区で支持を集めるその理由を探った。 -
『CAR GRAPHIC』2021年4月号発売 新型「Sクラス」でこれからのラグジュアリーカーを知る
2021.3.1From Our Staff『CAR GRAPHIC』2021年4月号では、フルモデルチェンジした「メルセデス・ベンツSクラス」の仕上がりをリポート。新型「スバル・レヴォーグ」「BMW 5シリーズ」の“異グレード比較”にも注目! -
メルセデスAMG GLA45 S 4MATIC+(4WD/8AT)【試乗記】
2021.3.1試乗記CセグメントのSUVをベースに、メルセデスAMGが徹底的に走りを突き詰めた「メルセデスAMG GLA45 S 4MATIC+」。421PSの高出力ターボエンジンと専用チューニングのシャシーを備えたハイパフォーマンスモデルは、好事家の心をくすぐるトガった一台に仕上がっていた。 -
第201回:俺のナロー
2021.3.1カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。「ランボルギーニ・カウンタック」と「フェラーリ328」という聖遺物を手に入れた今、カーライフ的余生は安全・快適に過ごしたい。そこでADAS付き電動車を中心に足グルマの買い替えを検討し……購入したのは、なんと! -
軽自動車も全モデル電動化!? スズキの電動化戦略にみる課題と期待
2021.3.1デイリーコラムスズキが自社製品への電動化技術の全面展開を発表! コストパフォーマンスの高さで評価を得ている彼らが思い描く、理想の電動車とは? これまでの施策や、軽自動車の電動化に関する課題などを振り返りながら、「いいものを安く」を旨とする彼らの戦略を探った。