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ダイハツ・ブーン シルク“Gパッケージ SA II”(FF/CVT)/トヨタ・パッソX“Gパッケージ”(FF/CVT)

合言葉は“DNGA”! 2016.05.11 試乗記 鈴木 真人 「ダイハツ・ブーン/トヨタ・パッソ」が3代目にモデルチェンジ。2社による共同開発をやめ、ダイハツが企画、開発、生産を担う新体制のもとに誕生した新型の実力はいかに? その出来栄えを試すとともに、これからのトヨタとダイハツのあるべき関係を考えた。

完全子会社化の前から決まっていたOEM

「いいものを作らなければ、要らないと言われる可能性だってあるわけです。共同開発より緊張感が増しましたね」
ダイハツのエンジニアは慎重に言葉を選んで話した。新型「ダイハツ・ブーン/トヨタ・パッソ」は、ダイハツが企画・開発から生産まですべてを請け負っている。トヨタはOEM供給を受けて販売するだけの立場になった。配られた資料を見ても、これまでは「(トヨタ)パッソ/(ダイハツ)ブーン」と呼ばれていたのが「ブーン/パッソ」と並びが逆になっている。

この8月にダイハツはトヨタによって完全子会社化されることが決まっているが、このモデルの開発はずっと前に始まっている。トヨタが以前からダイハツの小型車開発の能力を高く評価していたのは周知の事実で、ブーン/パッソの開発を任せたのはグローバル戦略の一環なのだ。新興国向けのモデルを開発するには、軽自動車で軽量化やコストダウンのノウハウを積み上げてきたダイハツの力を借りることが重要になる。ブーン/パッソはトヨタとダイハツが小型車開発での協業を行う将来に向けた指標となるモデルなのだ。

OEMモデルを供給する前提で開発を進めることが強烈なプレッシャーを伴うことは、最近発覚した不祥事で目の当たりにしたばかりだ。完全子会社化の記者会見を見た限りでは、トヨタとダイハツの関係はうまくいっているように見える。ダイハツの三井正則社長は「BMWにおけるMINIのような存在、世界に通用する価値を持つグローバルブランドになっていきたい」と語り、トヨタの豊田章男社長は「両ブランドで一層“もっといいクルマづくり”を進めたい」と笑顔で応えていた。

2016年4月に登場した3代目「ダイハツ・ブーン/トヨタ・パッソ」。写真はダイハツ版の上級モデル「ブーン シルク」の「Gパッケージ SA II」。
2016年4月に登場した3代目「ダイハツ・ブーン/トヨタ・パッソ」。写真はダイハツ版の上級モデル「ブーン シルク」の「Gパッケージ SA II」。 拡大
「ダイハツ・ブーン シルク」のインストゥルメントパネルまわり。黒を基調に各所にグレージュとマゼンタのアクセントを施すことで、「ブーン」との差別化を図っている。
「ダイハツ・ブーン シルク」のインストゥルメントパネルまわり。黒を基調に各所にグレージュとマゼンタのアクセントを施すことで、「ブーン」との差別化を図っている。 拡大
3代目となる新型からは開発体制も大幅に変更。これまでの2社共同開発をやめ、ダイハツが企画、開発、生産を担い、トヨタにOEM供給することとなった。写真は「トヨタ・パッソX“Gパッケージ”」。
3代目となる新型からは開発体制も大幅に変更。これまでの2社共同開発をやめ、ダイハツが企画、開発、生産を担い、トヨタにOEM供給することとなった。写真は「トヨタ・パッソX“Gパッケージ”」。 拡大
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ダイハツ最大、トヨタ最小

豊田社長は「トヨタの小型車開発はミドルクラスの車両開発を軸にしているが、ダイハツは軽で培った技術からアプローチする」とも話していた。ブーンは軽が本業のダイハツにとっては自社生産モデルとしては最大で、パッソはトヨタでは最小となる(軽乗用車を除く)。初代のCMでは「トヨタ最小プチトヨタ」と歌っていた。吹石一恵と加藤ローサが出演していて、2人ともその後幸福な結婚をした。ラッキーな役回りといえる。今回のCMはマツコ・デラックスが務めているから路線が変わった。広々とした室内を強調しているわけだ。

確かに広い。後席に座ると、足元にはたっぷりとした余裕がある。先代よりホイールベースが50mm伸ばされていて、前後の乗員間距離はそれに25mm上乗せされてプラス75mmの940mmとなった。全長は同じだからその分荷室は犠牲になっているのだろうが、もともと大して広くないからあまり気にならないだろう。全高は10mm低くなっているものの、頭上スペースも十分。軽トールワゴンほどの高さはないが、大きなサイドウィンドウのおかげで開放的な印象の空間になっている。

せっかく一緒になったのだからトヨタ自慢の新世代プラットフォーム「TNGA」を使えばよさそうなものだが、開発を始めた頃にはまだそんなものはなかった。そもそも、このサイズではTNGAは大きすぎるらしい。フォルクスワーゲンが「ゴルフ」や「パサート」で使っているMQBも、「up!」クラスのスモールカーは対象としていない。ブーン/パッソは従来の小型車専用プラットフォームを大幅に改良して使っている。アンダーボディーには剛性強化のための補強を行い、走行性能を向上させたという。

ボディーはサイドアウターパネルの全面厚板ハイテン化などで衝突強度を確保しながら約50kgの軽量化を果たしたが、性能向上のために増えた分と相殺する形で車両重量は前モデルと変わらない。軽自動車の「キャスト」と比べても70kgほど重い910kgにとどめている。

「ダイハツ・ブーン」と「トヨタ・パッソ」の違いは、ラインナップの構成や各グレードに設定される装備の差を除けば、内外装に施されたエンブレム程度である。
「ダイハツ・ブーン」と「トヨタ・パッソ」の違いは、ラインナップの構成や各グレードに設定される装備の差を除けば、内外装に施されたエンブレム程度である。 拡大
「トヨタ・パッソX“Gパッケージ”」のインストゥルメントパネルまわり。助手席側のダッシュボード中段の収納は、「ブーン シルク」「パッソ モーダ」ではフタ付きとなっているのに対し、「ブーン」「パッソ」ではオープントレーとなっている。
「トヨタ・パッソX“Gパッケージ”」のインストゥルメントパネルまわり。助手席側のダッシュボード中段の収納は、「ブーン シルク」「パッソ モーダ」ではフタ付きとなっているのに対し、「ブーン」「パッソ」ではオープントレーとなっている。 拡大
フロントシートは全車ベンチ式で、収納ボックス付きのセンターアームレストが備わる。
フロントシートは全車ベンチ式で、収納ボックス付きのセンターアームレストが備わる。 拡大
6:4分割可倒式のリアシート。従来モデルとは異なり、座面を前方にスライドさせて荷物が転がり落ちないようにする「ロングクッションモード」は廃止された。
6:4分割可倒式のリアシート。従来モデルとは異なり、座面を前方にスライドさせて荷物が転がり落ちないようにする「ロングクッションモード」は廃止された。 拡大

軽でおなじみの2フェイス戦略

ブーン/パッソのユーザーは、多くが女性である。「トヨタ・ヴィッツ」の男女比がほぼ同じなのとはずいぶん違う。パッソには「+Hana(プラスハナ)」という完全に女性向けのグレードがあった。新型も丸みを帯びたかわいげのある形をしているが、少しキリッとした表情である。サイドから見ると水平なラインで構成された端正なフォルムで、ユニセックスな印象だ。リアビューからは腰高な構えがなくなり、どっしり感が増した。

デザインは2種類用意されている。軽自動車では当たり前となった「2フェイス戦略」が採用されていて、ブーンには「ブーン シルク」、パッソには「パッソ モーダ」という上級モデルがある。フロントグリルやヘッドランプの意匠が異なっており、違いは一目瞭然。もっとオシャレ感が欲しければ、ルーフをブラックにした2トーンが選べる。最近ではお約束のオプションだ。

内装も差別化されていて、シルク/モーダはエアコン吹き出し口やセンターパネルが「マゼンタ」と称する赤紫のパーツで囲まれている。シートもベースグレードがモノトーンなのに対し、マゼンタの布をリボン状に配してアクセントに。ただ、よく見ると縫い目が真っすぐでなかったりして高級感が演出されているかどうかは微妙。質感が向上しているとはいえ、やはりこのクラスでは内装にかけられる予算に限りがある。無理して上質に見せようとすると中途半端になってしまうことにもなりかねない。

ベースグレードは115万円という野心的な価格。軽乗用車の「ダイハツ・キャスト」より安いのだから、税金を考慮に入れても競争力がある。ただ、今では必須になったともいえる衝突回避支援システムはひとつ上のグレードでないと装備されない。6万5000円ほどの違いだから付けておいて損はないだろう。ダイハツが作っているのだから、パッソにも「トヨタセーフティセンスC」ではなく「スマートアシストII」が装備される。

ボディーカラーは全12色。「ブーン シルク」「パッソ モーダ」には、ルーフを「ブラックマイカメタリック」で塗り分けたツートンカラーも用意されている。
ボディーカラーは全12色。「ブーン シルク」「パッソ モーダ」には、ルーフを「ブラックマイカメタリック」で塗り分けたツートンカラーも用意されている。 拡大
「ブーン シルク」「パッソ モーダ」のシート表皮はスエード調トリコット(写真)。そのほかのモデルでは、ジャージが用いられている。
「ブーン シルク」「パッソ モーダ」のシート表皮はスエード調トリコット(写真)。そのほかのモデルでは、ジャージが用いられている。 拡大
メーターの仕様もモデルによって異なり、「ブーン シルク」「パッソ モーダ」にはシルバー装飾付きの2眼式オプティトロンメーターが装備される。
メーターの仕様もモデルによって異なり、「ブーン シルク」「パッソ モーダ」にはシルバー装飾付きの2眼式オプティトロンメーターが装備される。 拡大
運転支援システムとしては、モノラルカメラや赤外線レーザーなどをセンサーに用いた「スマートアシストII」を採用。自動緊急ブレーキや車線逸脱警報、誤発進抑制制御(前進・後退)などの機能を備えている。
運転支援システムとしては、モノラルカメラや赤外線レーザーなどをセンサーに用いた「スマートアシストII」を採用。自動緊急ブレーキや車線逸脱警報、誤発進抑制制御(前進・後退)などの機能を備えている。 拡大

あえて直噴は使わない

エンジンは1リッター自然吸気の1種類。トヨタの「ヴィッツ」が1.3リッターエンジンをメインにしているので、それより小さな排気量を選んでいる。スペックからは大きな期待はできないが、思ったよりも活発に走る。急加速するとうるさいのは仕方がない。このクルマのユーザーは運転マナーが穏やかだ。ゆったりとアクセルを踏みていねいに速度をコントロールするのなら、とても静かでスムーズに走る。そういう使い方を想定して作り上げられたクルマなのだ。だからハンドリングにもとがったところはまるでなく、安心感を最優先した設定が施されている。

最高出力や最大トルクの数字は先代とまったく同じ。変えていないように見せかけて、メカニズムには大幅に手が入れられている。吸気ポートやインジェクターのデュアル化で燃焼効率を高めており、圧縮比は従来の11.5から12.5に向上。EGR量も拡大した。それでもスペックが変わっていないのは、低回転域でのトルク強化に目的を絞ったからだ。もう少し力強い走りが欲しいというユーザーからの要望に応えたのだという。スポーティーな運転をするわけでなくても、街乗りでの余裕はうれしいのだ。

燃費も向上し、FFモデルでは28.0km/リッターとなった。軽自動車でもハイブリッドでもないモデルとしてはトップの数字である。先代が27.6km/リッターだからあまり伸びていないようだが、マイナーチェンジ前は23.0km/リッターだった。いずれにせよ、軽で培った「e:Sテクノロジー」を惜しみなくつぎ込んで達成した燃費である。

直噴にすればもっと性能を上げることができるのかというと、そう簡単な話ではないようだ。コストがかかりすぎて価格競争力がなくなるのはもちろん、重量増も無視できない。エンジンの背が高くなってしまうので、歩行者安全のマージンを取ることも困難になる。直噴はこのクラスのクルマには向かないというのがエンジニアの弁で、使えないのではなくてあえて使わない選択をしたということだった。

ダイハツがトヨタにとってかけがえのない存在になるには、トヨタとは異なる発想のクルマ作りを行わなければならない。ブーン/パッソはその起点として十分なインパクトになったと思う。完全子会社化の会見で、三井社長は「TNGAとは違う、ダイハツならではの……」と言いかけたところで豊田社長から耳打ちされ、「DNGAでやっていきたい!」と言葉を継いだ。半ば言わされていたように見えたが、協業が軌道に乗ればどちらの会社にとってもメリットは大きいはずだ。

(文=鈴木真人/写真=田村 弥)

新型「ブーン/パッソ」に搭載されるエンジンは1リッター3気筒のみ。従来モデルに設定のあった1.3リッター4気筒エンジンは廃止された。
新型「ブーン/パッソ」に搭載されるエンジンは1リッター3気筒のみ。従来モデルに設定のあった1.3リッター4気筒エンジンは廃止された。 拡大
1リッター直3エンジンの「1KR-FE」。最高出力、最大トルクの数値は従来モデルと同じだが、燃焼効率の改善や低フリクション化、低回転域におけるトルクの強化などが図られている。
1リッター直3エンジンの「1KR-FE」。最高出力、最大トルクの数値は従来モデルと同じだが、燃焼効率の改善や低フリクション化、低回転域におけるトルクの強化などが図られている。 拡大
トランスミッションはFF車、4WD車ともにCVT。従来モデルから制御が改良されており、登坂路での走行性能が高められている。
トランスミッションはFF車、4WD車ともにCVT。従来モデルから制御が改良されており、登坂路での走行性能が高められている。 拡大
荷室の容量は後席を起こした状態で193リッター、後席をたたんだ状態で670リッターとなっている。(写真をクリックすると、シートの倒れる様子が見られます)
荷室の容量は後席を起こした状態で193リッター、後席をたたんだ状態で670リッターとなっている。(写真をクリックすると、シートの倒れる様子が見られます) 拡大
新型「ブーン/パッソ」の燃費は、FF車が28.0km/リッター、4WD車が24.4km/リッターとなっている(ともにJC08モード)。
新型「ブーン/パッソ」の燃費は、FF車が28.0km/リッター、4WD車が24.4km/リッターとなっている(ともにJC08モード)。 拡大
ダイハツ・ブーン シルク“Gパッケージ SA II”
ダイハツ・ブーン シルク“Gパッケージ SA II” 拡大

テスト車のデータ

ダイハツ・ブーン シルク“Gパッケージ SA II”

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3660×1665×1525mm
ホイールベース:2490mm
車重:910kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:69ps(51kW)/6000rpm
最大トルク:9.4kgm(92Nm)/4400rpm
タイヤ:(前)165/65R14 79S/(後)165/65R14 79S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:28.0km/リッター(JC08モード)
価格:165万7800円/テスト車=195万6226円
オプション装備:ボディーカラー<ブラックマイカメタリック×マゼンタベリーマイカメタリック塗装>(5万4000円)/純正ナビ装着用アップグレードパック(2万9160円) ※以下、販売店オプション ワイドダイヤトーンサウンドメモリーナビ(17万273円)/ETC車載器<エントリーモデル>(1万7280円)/カーペットマット<シルク用 高機能タイプ/ダークグレー>(2万7713円)

テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:835km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

トヨタ・パッソX“Gパッケージ”
トヨタ・パッソX“Gパッケージ” 拡大

トヨタ・パッソX“Gパッケージ”

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3650×1665×1525mm
ホイールベース:2490mm
車重:910kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:69ps(51kW)/6000rpm
最大トルク:9.4kgm(92Nm)/4400rpm
タイヤ:(前)165/65R14 79S/(後)165/65R14 79S(ダンロップ・エナセーブEC300+)
燃費:28.0km/リッター(JC08モード)
価格:144万7200円/テスト車=172万2006円
オプション装備:ナビレディパッケージ<バックカメラ+ステアリングスイッチ[オーディオ操作]>(2万9160円)/SRSサイドエアバッグ<運転席・助手席>+SRSカーテンシールドエアバッグ<前後席>+ELR付き3点シートベルトプリテンショナー&フォースリミッター機構<左右席>(4万9680円) ※以下、販売店オプション スタンダードナビ(15万1524円)/ETC車載器ビルトインタイプ<ボイスタイプ>ナビ連動タイプ(1万7442円)/フロアマット<デラックスタイプ>(2万7000円)

テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:736km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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