1985年、不況下のダブリン

1985年のアイルランドは不況のどん底にあった。ダブリンの高校生コナー(フェルディア・ウォルシュ=ピーロ)は、父親が失業したことで生活が一変する。授業料の安い公立校に移らなければならなくなったのだ。上品な生徒の集う私立のぬるま湯に別れを告げ、タフでハードな学園生活が始まる。授業中も悪ガキどもが騒いでいる教室は『ごくせん』さながらの学級崩壊ぶりだ。ヤンクミのような教師がいるはずもなく、コナーは孤立無援となる。

登校初日から暴力の洗礼を受ける。トイレに連れ込まれて「踊れ!」と脅され、渋々ステップを踏むと今度はパンツをおろせと要求はエスカレート。さらにたちが悪いのが校長だ。生徒に対して絶対的な権力をふるうことが自分の役割だと考えていて、校則を厳格に守るよう命じる。「靴の色は黒」という規定をたてにとり、コナーの茶色の靴を取り上げるのだ。

お先真っ暗だが、コナーは一筋の光明を見つける。校門の前にあるアパートに、イケてる女の子が住んでいたのだ。勇気をふりしぼって声をかけると、ラフィーナ(ルーシー・ボイントン)はモデルをやっていると話す。場末感たっぷりの見た目でどう考えても眉唾だが、恋する男子は一直線だ。「僕のバンドのビデオに出演してほしい」と誘い、電話番号を手に入れる。

問題は、「僕のバンド」なんてどこにも存在していないことだ。引きこもりの兄から音楽の知識を伝授されているが、音楽仲間はいない。学校内に募集のチラシを貼り、なんとかメンバーをそろえた。

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第126回:ヒゲもクルマもないけれど、少年には愛がある『シング・ストリート 未来へのうた』の画像 拡大
 
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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