「ゴルフ」が少年の妄想を打ち砕く

早速デュラン・デュランの曲を練習するが、兄から「他人の曲で口説くつもりか?」と叱責(しっせき)される。必死で作ったオリジナル曲は「The Riddle of Model」。“モデルの謎”というタイトルは痛すぎるが、ラフィーナをキャスティングしてビデオ撮影を行うことになった。メンバーが思い思いに集めてきた衣装のダサさが超リアル。ビデオの演出も相当恥ずかしいものだが、事実の忠実な再現ともいえる。当時のビデオクリップはカッコつけだけの意図不明なものも多く、見ていていたたまれない気分になったものだ。

最初はやぼったかったコナーだが、自信をつけるにしたがってそれなりにサマになってくる。前髪にメッシュを入れてメークをしたまま学校に行ったのはやり過ぎで、校長室に呼び出されてお仕置きを受けた。それでも、ラフィーナとは少しずつ親密な関係になっていく。これまで女の子との接触が一切なかったコナーの頭の中は、妄想ではちきれんばかりだ。

千載一遇のチャンスがやってきた。練習で遅くなった夜、彼女を家に送り届けることになる。別れ際にキスできるかもしれない! しかし、そこに白い「ゴルフ カブリオ」に乗った男が現れた。ラフィーナには年上の彼氏がいたのだ。助手席に座って去っていくのを見送り、コナーは打ちひしがれる。「相手は大人で、クルマもヒゲもある」から、自転車で送ってきた自分に勝ち目はない。

ラフィーナの夢は、ロンドンでモデルとして成功することだ。ダブリンにいたのでは、明るい将来は見えてこない。当時のアイルランド人に「2016年にイギリスはEU離脱を決め、アイルランドのパスポートを欲しがるイギリス人が現れる」と話しても、一笑に付されただろう。

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第126回:ヒゲもクルマもないけれど、少年には愛がある『シング・ストリート 未来へのうた』の画像 拡大
「フォルクスワーゲン・ゴルフ カブリオ」
1974年に優秀な実用車として登場したゴルフだが、1980年になるとオープン版のカブリオが追加された。ビートルと同様に、コーチワークを担当したのはカルマン社。ゴルフIIの時代になっても、カブリオは初代のまま販売された。
「フォルクスワーゲン・ゴルフ カブリオ」
	1974年に優秀な実用車として登場したゴルフだが、1980年になるとオープン版のカブリオが追加された。ビートルと同様に、コーチワークを担当したのはカルマン社。ゴルフIIの時代になっても、カブリオは初代のまま販売された。 拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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