ラストを彩る謎のメルセデス・ベンツ

コナー役のピーロは演技の経験はなかったが、音楽一家で育った。ステージでのパフォーマンスは堂に入っていて、ミュージシャンとしてもやっていけそうだ。サントラはデュラン・デュランやザ・キュアーなどの当時のヒット曲と映画オリジナル曲がミックスして収められている。

監督はジョン・カーニー。2007年に『ONCE ダブリンの街角で』、2013年に『はじまりのうた』という2本の音楽映画をヒットさせている。彼はダブリンの出身で、『シング・ストリート』には自伝的要素が込められているようだ。バンドでベースを弾いていたこともあり、ビデオクリップの撮影も担当した。その経験を生かして映画に進出したわけだ。

どの作品も映画として優れているだけでなく、使われている音楽が素晴らしい。『ONCE』で主演した2人はほとんど演技経験のなかったミュージシャンで、映画撮影後も音楽活動を続けている。『はじまりのうた』ではキーラ・ナイトレイの元カレ役がマルーン5のアダム・レヴィーンだった。彼は本作で主題歌を歌っている。

これまでの2本の作品も男女のロマンスを扱っていたが、ストレートに恋は成就せず、寸止め感がもどかしかった。今度は違う。若い2人は情熱的だ。ラストシーンは、1971年の名作『小さな恋のメロディ』を思い起こさせる。

大事なことを忘れていた。コナーの家には1台のクルマがずっと停めてあって、カバーの下からメルセデス・ベンツらしきグリルがのぞいていた。何度も同じアングルで映されるので気になっていたのだが、最後にこのクルマがいい仕事をする。愛と自由と勇気を乗せて走り抜けるのだ。

(文=鈴木真人)
 

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『シング・ストリート 未来へのうた』
2016年7月9日(土) ヒューマントラストシネマ有楽町、渋谷シネクイント 他全国順次公開
配給:ギャガ
 
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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