メルセデス・ベンツSL400(FR/9AT)
贅沢な技術 2016.08.31 試乗記 メルセデス・ベンツのフラッグシップロードスター「SL」に試乗。マイナーチェンジを受けて数々の新技術が投入された最新型の走りやいかに? 従来の「SL350」に代わる新しいエントリーグレード「SL400」のステアリングを握った。「クールウインド・イン・マイ・ヘア」
メルセデスで最も贅沢でエレガントなSLを流す舞台は、コートダジュールのプロムナードあたりがふさわしいのかもしれないが、私が思い描くのはカリフォルニアのパームスプリングスのような砂漠の中の新しい街だ。もともとの出自は“超軽量”のレーシングカーでカレラ・パナメリカーナやミッレミリアなどの公道レースを席巻して名を上げたが、その後のSLは米国育ちと言ってもいい。一歩街の外へ出れば荒涼とした原野が広がり、その中を乾いた冷たい風に髪をなぶらせながら疾走する。まさにイーグルスのあの名曲の冒頭のイメージだ。怪しい花の香りを嗅ぐにはオープンでなければならない。
歌の中のドライバーは、疲れ果てて不思議な宿に引き寄せられてしまうのだが、現代のSLは風に当たって頭が重くなるようなことはない。ワンタッチで上下する電動ドラフトストップを使えば100km/hぐらいまでなら風の巻き込みをほぼ抑えることができるし、シートにはヒーターだけでなくベンチレーターも備わり、さらに首筋の周りに暖かい空気を送るエアスカーフも付いている。そもそも、風の音がうっとうしくなったら、電動バリオルーフを閉じればいいだけのこと。文字通り水も空気も漏らさぬクーペに変身する。開閉操作も新たに40km/h以下なら動いていても操作できるようになった(ただし開閉ともに操作を始めるのは停止中に限られる)。ラゲッジルーム内の荷物干渉防止カバーも電動となり、カバーを閉め忘れてバリオルーフが反応しないということもなくなった。このようにあらゆる機能を詰め込むことができるのもフラッグシップロードスターならではのこと。メルセデス・ベンツの最新技術、ということは当然その時代時代の一番高価な技術をたったふたりのために惜しみなく注いで凝縮しているのだから、SLがブランドの頂点に位置するのは当たり前なのである。