持続可能なモビリティーを目指して

では、新たにオープンした施設で、ミシュランは何を作るというのか?
「ミシュランにとって最も重要なのは、持続可能なモビリティーを実現することにあります」
これはロベール氏ひとりが考える理想ではなく、ミシュラン全体の使命として公に定められたことでもある。

「中でも、最も重要なのはタイヤの転がり抵抗低減です。乗用車が消費するエネルギーのうち、実に20%がタイヤの転がり抵抗によって失われています。この比率は、大型トラックでは実に33%に跳ね上がります。持続可能なモビリティー社会を構築するには、まずこの転がり抵抗を低減するのが重要であることは言うまでもありません」

今日、省燃費タイヤには必ずといっていいくらいシリカと呼ばれる素材が用いられているが、実はシリカを初めてタイヤに用いたのはミシュランだった。つまりミシュランは、転がり抵抗を低減するうえでの大きなふたつの柱であるラジアル構造とシリカの両方を考案したタイヤメーカーでもあるのだ。
「私たちはタイヤの転がり抵抗を今後10年間でさらに10%低減することを目指しています」
ロベール氏は力強く宣言した。

「もうひとつ忘れるわけにいかないのは素材のサステナビリティーです」とロベール氏。
「おそらくミシュランは今後も長くタイヤの原料として天然ゴムを使用するでしょう。そこで私たちはインドネシアに大規模な投資を行ってゴム農園の運営にあたっていますが、この活動は世界自然保護基金(WWF)と連携し、環境保護にも取り組んでいます」

「いっぽう、従来の化学合成素材は石油から精製していましたが、私たちは外部の研究機関と協力してバイオマスから同様の化学素材を生み出すプロセスを研究しています。これも素材のサステナビリティーという点で非常に重要なことだと認識しています」

素材のサステナビリティーを考えるうえではタイヤの耐久性、つまり寿命を延ばすことも重要になるが、タイヤが長持ちすればタイヤの販売量が減少し、タイヤメーカーにとって不都合な事態を招きかねない。

「たしかに企業にとって収益性は大切ですが、私たちの使命は人々をよりよい世界に導くことにあります。そのためには企業としての収益性と持続可能な未来のモビリティー社会を両立させるベストバランスを考えなければなりません。そして、これを実現するうえで最も重要なのが先進的な技術に基づくイノベーションなのです。私たちは売り上げの3%ほどをR&Dに投じていますが、これはタイヤ産業界では異例の規模といえます。それはすべて、持続可能なモビリティーを実現するための研究開発に用いられているのです」

ナチス政権への協力を拒んでラジアルタイヤを誕生させ、シリカでタイヤの転がり抵抗を飛躍的に改善したミシュラン。彼らの省燃費タイヤへの取り組みは、単なるタイヤメーカーのビジネス戦略という枠組みをはるかに超え、次世代の社会的責任を果たすための努力と捉えたほうがふさわしいような気がする。

(文=大谷達也<Little Wing>/写真=大谷達也、ミシュラン/編集=竹下元太郎)

「ミシュランにとって最も重要なのは、持続可能なモビリティーを実現することにあります」とロベール氏。(写真=大谷達也)
「ミシュランにとって最も重要なのは、持続可能なモビリティーを実現することにあります」とロベール氏。(写真=大谷達也) 拡大
省燃費タイヤの素材として不可欠なシリカ。これを最初に用いたのはミシュランだった。同社はタイヤの転がり抵抗を、今後10年間でさらに10%低減することを目指している。
省燃費タイヤの素材として不可欠なシリカ。これを最初に用いたのはミシュランだった。同社はタイヤの転がり抵抗を、今後10年間でさらに10%低減することを目指している。 拡大
ロベール氏は、「企業としての収益性と持続可能な未来のモビリティー社会を両立させるベストバランスを考えなければならない」と述べる。これを実現するために、ミシュランは売り上げの約3%をR&Dに投じている。
ロベール氏は、「企業としての収益性と持続可能な未来のモビリティー社会を両立させるベストバランスを考えなければならない」と述べる。これを実現するために、ミシュランは売り上げの約3%をR&Dに投じている。 拡大
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