ボルボXC60 T5 AWDクラシック(4WD/8AT)
長く乗りたい人のボルボ 2016.10.31 試乗記 デビューから8年。モデルサイクル終盤を迎えた「ボルボXC60」に、装備充実のグレード「クラシック」が設定された。ボルボの新世代エンジンと4WDシステムの組み合わせは、どのような走りを実現したのか。特別装備の使い勝手を含めてリポートする。熟成をきわめたお買い得車
ボルボXC60がデビューしたのは2008年。世界販売ではボルボで一番売れているクロスオーバーSUVである。
そのXC60にクラシックが登場した。FFの2リッター4気筒ディーゼルターボの「D4」(599万円)と、直噴2リッター4気筒ガソリンターボ+4WDの「T5 AWD」(629万円)である。今回試乗したのはT5 AWDだ。
クラシックとは、モデル末期のボルボ車に設定される装備充実エディションである。ボルボのライフサイクルも近年は人並みになったが、四角四面デザインだった昔のボルボは長寿だった。わけても19年(1974~93年)という最長寿を誇った「240」の最終モデルに設定されたのが、クラシック第1号だったと記憶している。ボルボの終活、といったら後ろ向きだが、買うほうにしてみたら、熟成をきわめた超熟お買い得売り切りセール車である。
実際、日本には「クラシックが出たら、買う」というコアなボルボ党がいるのだそうだ。どのボルボか、という以前に、ボルボクラシックファンというわけだ。
XC60クラシックは2017年モデルである。T5 AWDの2016年モデルは599万円だった。なんだ、30万円値上げしてるじゃないかと思うかもしれないが、新型はエンジンが刷新され、さらに、パノラマガラスサンルーフ、本革シート、モダンウッドパネル、12セグ地上デジタルTV、前席シートヒーターなどの装備が標準で付く。
AWDモデルにも新世代エンジンを採用
XC60 T5 AWDクラシックに搭載されるのは、ボルボの新しい主力ユニット、直噴2リッター4気筒ターボである。すでに他モデルでもおなじみのこのエンジン、XC60にもFFモデル用として2014年に登場していた。
だが、昨年夏のD4導入時にカタログから落とされた。クリーンディーゼル販促のためである。その甲斐あって(?)、以来、日本のXC60販売は、7割がD4だという。
しかし、AWDについては、D4にもガソリン2リッター4気筒にもまだその組み合わせが存在しないため、フォード傘下時代からの5気筒2リッターが四駆用ユニットを務めていた。それが今回、めでたくガソリン2リッター4気筒+AWDのコンビに換装、というわけである。と同時に、XC60最後のモデルイヤーになるかもしれない2017年モデルで、D4からT6に至るシリーズ全部で、新世代エンジン化を果たしたことにもなる。
前置きが長くなったが、1年ぶりにXC60に帰ってきた2リッター4気筒ターボは、相変わらず軽快な好エンジンである。T5とは、ボルボの出力区分で201~250psを意味し、このエンジンは245ps。車重1860kgのボディーにも快速を与えている。
変速機はアイシン・エィ・ダブリュ製の8段ATである。最大トルク45.9kgm(450Nm)までのエンジンに対応するボルボの主力ATで、以前、2リッターツインチャージャー(40.8kgm)の「XC90」に乗ったときには、変速時にちょっとしたためらいやショックを感じたが、35.7kgm(350Nm)のT5 AWDにはなんの不満もない。高速道路の100km/h時には、エンジン回転を1600rpmまで下げてくれる。
8年たっても色あせないスタイリング
ボルボのライフサイクルも人並みになった、と前述したが、XC60は8年目だ。やはり長寿の家系である。
でも、5ドアワゴンボディーのデザインはまったく古臭く見えない。内装も同様だ。彫りの深いドアパネルやシートの造形は、いまでも新鮮だし、立体造形のセンターコンソール(センタースタック)は、最近のクルマにもフォロワーを生んでいる。
本革シートとモダンウッドパネルが備わるクラシックのインテリアもエバーグリーンだ。ドイツ車的でも日本車的でもアメリカンでもない、上質であたたかな雰囲気は相変わらずである。
オフロードもイケるSUVとしては天地の低いボディーなので、屋根の2カ所が青天井になる電動パノラマガラスサンルーフはありがたい。最近はやりのガラス屋根ではなく、フロントは開閉し、同じスイッチを押し込めばチルトして、換気ができる。オプションだと、このサンルーフだけで20万円以上するそうだ。
一方、8年を経て、古さが否めないのは乗り心地である。筋骨隆々としているが、しなやかではない。バネ下が重く感じる。ステアリングやペダル類の操作力が概して重いのも、設計年次を感じさせるところだ。出てまもない新型XC90は、フルサイズで重さ2t超だが、これほどドッコイショ感はない。
パワーはいまなお最強クラス
昔、クロアチアで開かれた「S80」のプレス試乗会に参加したら、初日の夜中に突如、フォードによるボルボ買収が発表され、翌朝のプレゼンで「おはようございます。フォードの○○です」とスウェーデン人の広報部長が苦笑まじりにあいさつしたことがあった。
XC60も、激動の時代を生きたボルボである。出したと思ったら、親会社がフォードから中国系企業に変わった。そのために、モデル中盤には自社開発パワートレインへの移行を始めなければならなかった。しかしそれは好機でもあって、ガソリン2リッターで245psのパワーは、「メルセデス・ベンツGLC」「アウディQ5」「BMW X3」などの2リッター級ライバルと比べても、いまなお最強だ。
XC60はまた、ぶつかっても頑丈なクルマから、ぶつからないクルマへと、ひとつ上の高みを目指した最初のボルボでもあった。日本で販売されるクルマとしては初めて、完全停止までやる自動ブレーキの「シティセーフティ」を全グレード標準装備として2009年に導入している。
2代目の新型XC60は来年デビューする。風のうわさによると、すごくカッコいいらしい。
だが、ボルボは新型に飛びつくクルマではない、年輪の刻まれた初代XC60に長く乗りたいのだ、という人の選択がクラシックである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=荒川正幸)
テスト車のデータ
ボルボXC60 T5 AWDクラシック
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4645×1890×1715mm
ホイールベース:2775mm
車重:1860kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:245ps(180kW)/5500rpm
最大トルク:35.7kgm(350Nm)/1500-4800rpm
タイヤ:(前)235/55R19 105V/(後)235/55R19 105V(コンチネンタル・コンチエココンタクト5)
燃費:12.3km/リッター(JC08モード)
価格:629万円/テスト車=674万6000円
オプション装備:ボディーカラー<ルミナスサンドメタリック>(8万3000円)/FOUR-Cアクティブパフォーマンスシャシー(15万円)/本革スポーツシート(10万3000円)/プレミアムサウンド・オーディオシステム<マルチメディア>(12万円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:286km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。