悲劇はプリウスでやってきた

『溺れるナイフ』でも、少女性が描かれている。これまでの作品と異なるのは、コウという少年が登場することだ。同じレベルの強度を持つ存在が、引き合いながら反発しあって物語が進んでいく。

魔法少女がいつか魔女という邪悪な存在に変わってしまうように、少女は永遠に少女のままではいられない。夏芽は浮雲町に来てモデルとしての活動をやめていたが、写真集のオファーが舞い込む。彼女はコウに認められるには芸能活動で成功することが近道だと考えて引き受けることにした。写真集が評判となったことが、最悪の事態を招いてしまう。

火祭の夜に悲劇が起きた。彼女は祖父が危篤だとうそをついた男に連れていかれてしまう。卑劣な犯罪に使われたのは、「トヨタ・プリウス」である。ハリウッド映画ではいけ好かないインテリが乗ることになっているが、これだけ普及した日本では犯行に使われることにリアリティーがある。数が多いから目立たないのだ。

「女性映画のクラシックは、21世紀に生まれるのだと思っているので、その先陣を切りたいです。そして、未来の女の子にバトンを渡したいです」
山戸監督は、インタビューに答えて語っている。彼女の視線は後進の育成に向かっているのだ。巨匠としての自覚があるからこその言葉に違いない。観客として、われわれも彼女の覚悟に本気で向き合う必要がある。

(鈴木真人)
 

「トヨタ・プリウス」
1997年に登場した初の量産型ハイブリッドカーで、エコカーの代名詞となった。累計販売台数は400万台に届こうとしている。2015年に4代目となったが、映画に登場するのは3代目のモデル。
「トヨタ・プリウス」
	1997年に登場した初の量産型ハイブリッドカーで、エコカーの代名詞となった。累計販売台数は400万台に届こうとしている。2015年に4代目となったが、映画に登場するのは3代目のモデル。 拡大
『溺れるナイフ』
2016年11月5日(土)TOHOシネマズ渋谷ほか全国ロードショー
 
『溺れるナイフ』
	2016年11月5日(土)TOHOシネマズ渋谷ほか全国ロードショー
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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