アウディS4(8AT/ 4WD)
プレミアムの神髄 2016.11.25 試乗記 「アウディA4」の高性能バージョンである「S4」が登場。最高出力354ps、0-100km/h加速4.7秒をマークする、最新スポーツセダンの実力とは? 艶(あで)やかなミサノレッドに身を包んだプレミアムな一台に試乗した。“S”は俊足の証し
0-100km/h加速がわずか4秒台で、最高速はリミッターが作動する250km/h――スペックにだけ目をやれば、誰もが一級のスポーツカーを思い浮かべるであろう。そんな俊足を身に付けたセダンとワゴンが、昨年フルチェンジを受けた新型アウディA4 シリーズに加えられた、S4 と「S4アバント」だ。
これら2モデルの“見どころ”は、まずは見えない部分にこそ秘められている。そう、“S”の称号にふさわしい速さの源であるエンジンが、このモデル最初の売り物だ。
新開発されたターボ付き3リッターV型6気筒直噴ユニットには、アウディが“Bサイクル”と呼ぶ、吸気バルブ早閉じによるアトキンソンサイクル、いわゆるミラーサイクルを採用。高膨張比による高い熱効率と、過給エンジンとしては高い圧縮比を用いることで得られる幅広い領域での高出力を、同時に狙った最新ユニットだ。
左右バンクからの排気をそれぞれ独立した流路でタービンへと導くツインスクロール式ターボユニットは、最近のV型エンジンとの組み合わせトレンドともいえるバンク内側レイアウト。
結果、排気系を含んだエンジン外寸のコンパクト化とともに、ロスが少なく短い排ガス経路が実現したことによる、レスポンスの向上がうたわれている。
そんな心臓が発生した回転力を、まず受け入れるのは”ティプトロニック”と称する8段ステップAT。よりベーシックなA4シリーズにはMTと変わらぬ高い伝達効率が売り物のDCT、すなわち“Sトロニック”が用いられているが、そこはスタート用クラッチのトルク容量との兼ね合いで、組み合わせるトランスミッションを選ぶ戦略となっており、S4のティプトロニックにはトルクコンバーターを、A4のSトロニックには多板クラッチを用いる。
高性能アピールはほどほど
テストドライブを行ったのは、オプションアイテムであるスポーツディファレンシャル付き。“ブレーキ片利き”を利用してヨーイングを生み出すのではなく、増速機構を備えることで加速態勢でもヨーモーメントが得られる、より本格的なシステムだ。
さらに、見るからにゴージャスなSスポーツシートや、最新のアウディ車が売り物とするバーチャルコックピット、ヘッドアップディスプレイやマトリクスLEDヘッドライトパッケージなどもリストに加えた結果、839万円のベース価格が970万円近くにまで上書きされるという、豪華バージョンへと仕上げられていた。
既存のA4シリーズに用意されるSラインパッケージと同様のボディーキットをまとった姿は、「ハイパフォーマンスぶりのアピールはほどほど」という印象。タイヤも245/40の18インチと“平和なサイズ”。張り出しの強いフェンダーを備えた専用ボディーやファットなシューズなどで高いパフォーマンスぶりをより明確にアピールしたいのであれば、この新世代モデルにもいずれ追加されるであろう「RS」の登場を待つべきということだろう。
インテリア全体の印象も同様。その第一印象から入念に作り込まれたことがうかがえ、誰の目からも「仕立ての良いセダンのキャビン」であるはず。
そして、それは当然、ベースのA4セダンと何ら変わらぬ実用性を携えていることと同意でもあるわけだ。
最高にしなやかで上質
エンジンに火を入れ実際に走りはじめ、まず驚かされたのは「これって、タイヤの中にヘリウムガスでも充填(じゅうてん)されているんじゃないの?」と、思わずそんなジョークを言いたくなるほどの、ばね下の動きの圧倒的な軽やかさだった。
確かに、そうした傾向はベースモデルのA4シリーズでもある程度感じられる事柄ではある。けれども、そのレベルはこちらの方がはるかに高い。
こうした印象を筆頭として、自身が知るアウディ車の中で、最もしなやかで上質と思える乗り味の持ち主が、実はこのモデルであったのだ。ちなみに、そんな基本的な印象は“ドライブセレクト”でどのモードを選択しても変わることはない。基本となる「オート」のセッティングでは、路面とのコンタクト感は十分伝えつつも、軽めにしつらえられたステアリングのフィーリングも好印象だ。
静粛性がすこぶる高いことも、そんな乗り味の上質さをさらに加速させる重要なポイントになっていた。
撮影とは別途行ったテストドライブでは高速道路、ワインディング路、そして市街地を交えたルートを一気に300kmほど走破。が、そんな直後でも疲労感は全くのゼロに等しい。というよりも、これが相棒であれば「もう一周行ってきて」と言われてもふたつ返事で出掛ける気になれそうだ。
1000万円級でも選びたくなる
新型S4のすこぶる高い好感度には、もちろんドライバーの意に沿った自在な動きを実現してくれる、優れた動力性能も貢献していたことは言うまでもない。
実は、主にリアから届く排気音は、音質とボリュームが少しばかり「スポーティーさの過剰演出」に思え、個人的には興ざめだった。ひとり乗り状態であったため確認できていないが、後席に乗るゲストにとっては、不快と受け取られる場面もあるかもしれない。
しかしながら、最新ユニットらしくフリクションを意識させず、スタート直後から太いトルクを発しつつも、高回転域に至ってまで文句ナシのパワーフィールを得られることは、新型S4というモデルのもうひとつの魅力の根源というにふさわしい。もちろん、アウディが“Bサイクル”と称するミラーサイクル使用のネガなどが、感じられることはまるでない。
今回のテストドライブは、その大半の部分が夜間に限られた。そうしたなか、漆黒のタイトなワインディング路で“重宝”したのは、そんな状況でも過度と感じられないボディーサイズと、豊かな光量で行く先を照らし、対向車や先行車が現れれば「その部分」のみをスポット状にカットして相変わらず遠方を照らし続けてくれる、マトリクスLEDヘッドライトでもあった。
“そんな明るさ”に気を良くしてタイトなターンを追い込むと、多少のノーズの重さを感じる場面もあったのは事実。けれども、そうした印象を受けたのは、本当に限界に近い高い次元に限られていた。ましてや、このモデルの本来の“出典”がファミリーセダンであることを思えば、そこのところは「不問」にしても差し支えないだろう。
それにしても、新型S4にゴキゲンな思いで乗っているうちに、「どうして、こうした真に上質でスポーティーなセダンが、日本車の中にはないのだろう」とつくづく考えさせられることになった。
確かに、今回乗った仕様では、その価格は1000万円級。しかし、そうした対価を支払ってもなお選びたくてたまらなくなるパーソナルセダン、それこそが“プレミアム”のひとつの神髄というものでもあるのではないだろうか。
(文=河村康彦/写真=池之平昌信/編集=大久保史子)
テスト車のデータ
アウディS4
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4745×1840×1410mm
ホイールベース:2825mm
車重:1580kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:354ps(260kW)/5400-6400rpm
最大トルク:51.0kgm(500Nm)/1370-4500rpm
タイヤ:(前)245/40R18 97Y/(後)245/40R18 97Y(ブリヂストン・ポテンザS001)
燃費:12.7km/リッター(JC08モード)
価格:839万円/テスト車=969万5000円
オプション装備:ボディーカラー<ミサノレッドPE>(8万5000円)/セーフティーパッケージ<サイドエアバッグ(リア)+パークアシスト+サラウンドビューカメラ>(13万円)/バーチャルコックピット(7万円)/Bang & Olufsen 3D アドバンストサウンドシステム(17万円)/ヘッドアップディスプレイ(14万円)/リアスポーツディファレンシャル(19万円)/カラードブレーキキャリパーレッド(5万円)/Sスポーツシート<フロント>(37万円)/マトリクスLEDヘッドライトパッケージ<マトリクスLEDヘッドライト+ヘッドライトウォッシャー>(10万円)
テスト車の年式:2016年型
テスト開始時の走行距離:2319km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:174.8km
使用燃料:22.7リッター(プレミアムガソリン)
参考燃費:7.7km/リッター(満タン法)/7.8km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。