カーデザインには未来がある

かつての真珠王・御木本幸吉は、「世界中の女性の首を真珠でしめてご覧に入れます」という名言を残した。ゆえにカーデザイナーも、「世界中の道を自分のクルマで埋めてみせる」といった野望や、その征服感を語るのかと思いきや、実は彼らが過去作を見て第一に思いをはせるのは、完成に至るまでのストーリーであり、苦楽をともにしたスタッフなのである。

その背景には、今日のカーデザインが、「シトロエンDS」の時代のように1人の天才の仕事ではなく、高度なチームワークの産物であるという事実が挙げられるだろう。冒頭のオーケストラで、共演者との思い出のほうが先に思い出されるのと、どこか似ているとは言えまいか。

そんなことを思いながらLAショーの会場を歩いていると、泣く子も黙るカーデザイン教育の名門「アートセンター・カレッジ・オブ・デザイン」のスタンドにさしかかった。

その番をしていたハンドルネーム「キットカット」君は、マカオからやってきた学生だった。今日、日本ではカーデザインを志す学生が減っていると聞く。実際、キットカット君の周囲にも、日本人は数えるほどだという。世界的にも若者のクルマに対する関心が減っている中、あえてこの道を選んだ理由は何なのか? すると彼は、「これからの自動車は、自動運転化に電動化と、飛躍的な発展を遂げる。そうした中でカーデザインは、よりチャレンジしがいのある分野になるからね」と、自信をもって答えてくれた。

キットカット君も先輩デザイナー諸氏のように、信号待ちで自分がデザインしたクルマを眺めるときが、いつかくるかもしれない。そのとき彼がデザインしたクルマのステアリングを握っているのがボクだったりすると、これまたドラマになるではないか。

(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>、BMW、アウディ/編集=関 顕也)

前述のペーター・シュライヤー氏が社長を務めるキアが、2016年11月のLAショーに出展した「ソウル エクスクレイム」。
前述のペーター・シュライヤー氏が社長を務めるキアが、2016年11月のLAショーに出展した「ソウル エクスクレイム」。拡大
ゲルト・ヒルデブラント氏がデザインを統括するクオロスの「2プラグイン ハイブリッド コンセプト」。2015年の上海ショーで。
ゲルト・ヒルデブラント氏がデザインを統括するクオロスの「2プラグイン ハイブリッド コンセプト」。2015年の上海ショーで。拡大
アートセンター・カレッジ・オブ・デザインのスタンドで。前列でイラストを手にするのが、マカオからやってきた「キットカット」君。未来のデザイン担当副社長か。
アートセンター・カレッジ・オブ・デザインのスタンドで。前列でイラストを手にするのが、マカオからやってきた「キットカット」君。未来のデザイン担当副社長か。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト。国立音楽大学ヴァイオリン専攻卒にして、二玄社『SUPER CG』元編集記者、そしてイタリア在住21年と脈絡なき人生を歩んできたものの、おかげで妙に顔が広い。今日、日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして執筆活動に携わると共に、NHKラジオフランス語テキストでも活躍中。10年以上にわたるNHK『ラジオ深夜便』レギュラーリポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも奮闘している。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『カンティーナを巡る冒険旅行』『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(ともに光人社)、電子書籍『イタリア式クルマ生活術』(NRMパブリッシング)など数々の著書・訳書あり。

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