サーブは労働者階級のクルマ?

オーヴェのサーブ好きは父譲りである。幼いオーヴェは「サーブ92」に乗せられてドライブするのが何よりの楽しみだった。心の真っすぐな少年は、「サーブに勝るクルマは永遠に現れない」と話す父の言葉を信じ込む。ボルボのことは不倶戴天(ふぐたいてん)の敵だと考えるようになるのだ。

青年となったオーヴェは、ソーニャ(イーダ・エングヴォル)という女性と出会って恋に落ちる。初デートで話すのは、もちろんサーブのことだ。
「サーブの動力を生むのはレシプロエンジンなんだ。ピストンの動きをコンロッドに伝える。サーブの特徴は前輪駆動で……」
デートでは禁物の話題だが、ソーニャは違った。オーヴェが説明する前に、「プロペラシャフトがいらないんでしょ?」と返したのだ。サーブの美点を理解するソーニャは、オーヴェにとって運命の人に違いない。

新興住宅地で新婚生活が始まった。若き日のオーヴェは地区会長に選ばれ、安全な町づくりに取り組んでいた。パートナーは志を同じくする副会長のルネだ。知恵を合わせてさまざまな規則を定め、町の健全な発展を図ろうとした。気の合う2人だったが、実は大きな相違点があることが発覚する。ルネはボルボ好きだったのだ。

オーヴェは「サーブ93」、ルネは「ボルボ140」に乗っていた。最初はなんとか仲よく付き合おうとしていたが、オーヴェが「900」、ルネが「240」に乗り換える頃になると、次第に疎遠になっていく。クルマの違いで仲たがいするというのは理解しがたいが、スウェーデン人にとってはリアリティーのある話らしい。サーブは労働者階級、ボルボはアッパークラスのクルマというイメージがあるのだそうだ。バブル期の日本では派手なサーブと地味なボルボという対比だったが、的外れだったということになる。

「サーブ92」
航空機メーカーだったサーブが初めて作った自動車で、飛行機の面影を残す流線型デザインを持つ。1949年に量産が始まり、最初は764ccの水冷並列2気筒2ストロークエンジンを搭載していた。
「サーブ92」
	航空機メーカーだったサーブが初めて作った自動車で、飛行機の面影を残す流線型デザインを持つ。1949年に量産が始まり、最初は764ccの水冷並列2気筒2ストロークエンジンを搭載していた。拡大
(C)Tre Vänner Produktion AB. All rights reserved.
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「ボルボ140」
「アマゾン」こと「ボルボ120」をベースに1966年から生産された小型乗用車。4ドアセダンの「144」、ワゴンの「145」、2ドアセダンの「142」がある。丸みを帯びていた120から一転した角ばったデザインは、次世代の「240」にも受け継がれた。
「ボルボ140」
	「アマゾン」こと「ボルボ120」をベースに1966年から生産された小型乗用車。4ドアセダンの「144」、ワゴンの「145」、2ドアセダンの「142」がある。丸みを帯びていた120から一転した角ばったデザインは、次世代の「240」にも受け継がれた。拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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