フォレスターは「ずんぐりした機械」

一番ひどいことを書かれているのは、「スバル・フォレスター」である。
「私の観点からすれば、とくに美しい車とは言いがたい。ごく当たり前の小型SUV、実用のために作られたずんぐりとした機械だ。それに思わず手を触れてみたくなるというような人はかなり少ないだろう」
Eタイプが美の象徴として扱われているのとは対照的で、さすがにかわいそうになる。

美的評価は低いものの、フォレスターは重要な役割を担っている。宮城県のファミリーレストランで見かけて以来、「白いフォレスターの男」を「私」は何度も思い出す。スティーブン・スピルバーグの『激突!』を思わせる展開もある。不気味で邪悪な何かを浮かび上がらせるために、最もふさわしいクルマとして選ばれたのがフォレスターなのだ。

登場人物のまとう服装は具体的に記述され、セックス描写も山ほどある。実はこの作品は「おっぱい小説」でもあるのだ。ジャズとオペラのLPレコード、パスタとサンドイッチといったおなじみのアイテムがふんだんに登場する。井戸(のような穴)も重要な舞台装置として描かれ、不思議な話し方をする小人が活躍する。村上春樹博覧会の様相を呈していて、ファンにとっては安心して読める小説だ。

だからといって、自己模倣の手抜き作品と思ってはいけない。喪失と回復の物語であると同時に、イデアとメタファーが複雑な模様を形成する。非現実的な出来事は、リアリズムとして描かれる。武田泰淳の『富士』を想起させる骨太さもある。小説空間が一段と広がったように感じられた。『1Q84』のように第3部が書かれる可能性もある。「白いフォレスターの男」は今度こそ「私」の前に現れるのだろうか。

(鈴木真人)
 

「スバル・フォレスター」
1997年に発売されたスバルのクロスオーバーSUV。「インプレッサ」のプラットフォームを使い、水平対向エンジンに4WDを組み合わせたスバルお得意のパワートレインでオフロードとオンロードの両方に対応した走りを追求した。写真は小説の舞台となったとおぼしき、2005~2006年当時のモデル。
「スバル・フォレスター」
	1997年に発売されたスバルのクロスオーバーSUV。「インプレッサ」のプラットフォームを使い、水平対向エンジンに4WDを組み合わせたスバルお得意のパワートレインでオフロードとオンロードの両方に対応した走りを追求した。写真は小説の舞台となったとおぼしき、2005~2006年当時のモデル。拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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