アウディA3スポーツバック2.0 TFSIクワトロ スポーツ(4WD/7AT)
ホントは熱いヤツ 2017.03.24 試乗記 マイナーチェンジを受けた「アウディA3」に、スポーティーな足まわりが特徴の新グレード「スポーツ」が登場。新開発の2リッター直噴ターボに7段Sトロニックを組み合わせた、最新モデルの走りをリポートする。初めてのマイナーチェンジ
海ほたるの駐車場に入ると、ルームミラーに後ろのクルマのヘッドライトが映った。午前中のことだけれど、あいにくの春の雨で太陽が雲に覆われ、駐車場内は薄暗かった。低く構えた台形のシルエットと大きなグリルで、すぐにA3だとわかった。それも待ち合わせていた新型A3なのであった。なんたる奇遇! 待ち合わせしていたのだから、そうでもないか……。
アウディが「プレミアムコンパクト」の先駆けと自負するA3は、1996年にデビューし、いまや大黒柱のひとつに成長している……ことはいまさらでした。インゴルシュタット版「ゴルフ」として3代目にあたる現行型にとって、2013年9月のニッポン上陸以来、初のマイナーチェンジドモデルの登場である。
小改良のポイントは顔が命の自動車にとって大切なフェイスリフトと、「アウディプレセンス フロント」と呼ばれる自動ブレーキの全車標準装備化、スマートフォンインターフェイスの充実などデジタル方面のアップデートである。大まかなラインナップとして、ボディーはこれまで通り5ドアの「スポーツバック」と、のちに追加された4ドアの「セダン」の2種類で、それぞれのボディーに「1.4 TFSI」と「2.0 TFSIクワトロ」の設定がある。
ちょっと待ってください。3代目A3のクワトロは1.8リッターではなかったでしょうか? と気づいた読者諸兄はエライ。そう。最も注目すべきは、アバンギャルドになった目元もさることながら、従来の1.8 TFSIに代わって登場した2.0 TFSI、すなわち2リッターの直噴ターボエンジンである。
アウディ独自の燃焼方式「Bサイクル」を採用
排気量を小さくして燃費を稼ぐのではなくて、大きくすることによって効率を上げる。ダウンではなくて、アップサイジング。考え方は、MINIの「クーパーS」と同じだけれど、アウディ版では「Bサイクル」と呼ばれる独自の燃焼システムを採用している。
「Bサイクル」とは、発案者のアウディのエンジニア、Dr.ラルフ・ブダックにちなんでの命名だそうで、いわゆる「ミラーサイクル」の原理を取り入れ、バルブタイミングの設定によって低・中負荷領域で吸気行程を短縮し、燃料消費を減らす。一方、高負荷運転時では一般的なバルブタイミングに戻し、2リッターの排気量とターボチャージャーによる過給でもって大パワーを発揮する。すでに「A4」に搭載されているこのBサイクル2.0 TFSIは、最高出力190psを4180-6000rpm、32.6kgm(320Nm)の最大トルクを1500-4180rpmという広範囲で発生するのだ。
ちなみに、自他共に認めるエンジン屋のBMW製MINIクーパーS用2リッターターボはそれぞれ192ps/5000rpmと280Nm(28.6kgm)/1250-4600rpmで、数字を並べてみるとアウディの2.0 TFSIはトルクが際立っていることがわかる。
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第一印象は「なんだかヘン」
今回ご紹介するのはこの2リッター直噴ターボを搭載したスポーツバック2.0 TFSIクワトロの、新たに登場した“スポーツ”というモデルである。
ホイールを17インチにサイズアップして15mm車高を下げたのが“スポーツ”で、さらにテスト車は32万円のオプションの「Sラインパッケージ」が組み込まれている。LEDヘッドライト、その下のブレーキ冷却を目的としているかに見せるグリルのハニカム模様等がオシャレのキーで、フツウのスポーツよりさらに10mm低くて、10mm長いプロポーションを持つ。しばらくその「ベガスイエロー」という、目も覚めるような鮮やかなボディー色のA3を眺めながら走る。
でもって、木更津に到着してから試乗を開始し、館山自動車道にあがったわけである。そのとき筆者が思ったのは、「なんだかヘン」ということだった。
これは1.4、いや1.2ターボであろうか……と訝(いぶか)った。なんせ予習をしていなかった。MQBプラットフォームを共有する兄弟車のゴルフと同じ1.2ターボが搭載されたのかもしれない。そんなふうにも思った。正直、ここだけの話。予習しよう!
それが「Bサイクル」を採用した新2.0 TFSIエンジンに対する筆者の第一印象であった。予習の話じゃなくて。
ギャップの大きな二重人格車
フツーに走っていると、アクセルペダルに対する反応がイマイチで、いかにもエコなエンジンである。100km/h巡航は7段Sトロニックのトップで1600rpmにすぎない。Bサイクルの搭載と同時に、アウディ版DSGのSトロニックが6段から7段に多段化されたわけだけれど、そのメリットがこの一事で明白にわかる。
そこからガバッとアクセルペダルを踏み込むと、Sトロニックが7から瞬時に3まで落として回転をギュワンとあげ、乾いた軽快なエキゾーストサウンドを発しながら一転して活発な動力性能を見せつける。
山道においては切れ味鋭い。クワトロなのでトルクステアはない。低い着座位置はスポーツカーのごとしである。アウディはクールな走り味を信条としてきたけれど、ここにきて隠されてきた情熱が表に出てきたように感じるほどである。マイナーチェンジ前の「S3」に通じる速さと官能がある。
でもって、小さく踏めば小さく応え、大きく踏めば大きく応える。西郷隆盛を評した坂本龍馬にならって申し上げれば、このような表現となる。あ、当たり前じゃないか。
もとい、これは昼行灯(あんどん)の婿殿、中村主水(もんど)が実は必殺仕事人であるみたいな二重人格車なのだ。ギャップがでかいだけに、真の正体にカタルシスを感じる。アウディの新しい2.0 TFSIユニットは一見、ボケナスを演じる。それは仮の姿だ。大義を前にふだんの欲望は抑え、いざというときに爆発させる。たとえアウトバーンの国であっても、いや、アウトバーンの国なればこそ、大きく踏んだ時に大きく応えてくれることが肝要なのである。
なお、乗り心地は硬い。ゴムがすり減り硬化してしまって、足裏にゴツゴツとした路面の感覚を伝える筆者の古い革靴を思わせるほどに。しかし、それは辟易(へきえき)するほどではない。安心してください。飛ばすほどに快適になる。
ゆいいつの問題は429万円という、あと18万円で「A4」に届く価格なのだけれど、小さいクルマは小さいことに意味がある。テスト車の「ベガスイエロー」は7万円のオプションで、春には菜の花のような、夏にはひまわりのような、秋には菊のような、冬にはみかんのような女性に似合うと思う。
(文=今尾直樹/写真=尾形和美/編集=大久保史子)
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テスト車のデータ
アウディA3スポーツバック2.0 TFSIクワトロ スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4325×1785×1450mm
ホイールベース:2635mm
車重:1460kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:190ps(140kW)/4180-6000rpm
最大トルク:32.6kgm(320Nm)/1500-4180rpm
タイヤ:(前)225/40R18 92Y/(後)225/40R18 92Y(ダンロップSPORT MAXX RT)
燃費:16.0km/リッター(JC08モード)
価格:429万円/テスト車=532万円
オプション装備:ボディーカラー<ベガスイエロー>(7万円)/コンビニエンスパッケージ<アドバンストキー、アウディパーキングシステム、リアビューカメラ>(21万円)/ナビゲーションパッケージ<MMIナビゲーションシステム、アウディサウンドシステム、スマートフォンインターフェイス>(35万円)/S lineパッケージ<LEDヘッドライト、LEDリアダイナミックターンインディケーター、バーチャルコックピット、3スポークレザー フラットボトム マルチファンクションステアリングホイール、S lineステアリングホイールエンブレム、デコラティブパネル、ブラックヘッドライニング、S lineドアシルトリム、ステンレススチールフットペダル、S lineロゴ入りクロス/レザーシート、S lineエクステリアロゴ、スポーツバンパー、S lineスポーツサスペンション、S lineルーフスポイラー、5パラレルスポークデザインアルミホイール、225/40R18タイヤ>(32万円)/Bang & Olufsenサウンドシステム(8万円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:2631km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:251.6km
使用燃料:21.8リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:11.5km/リッター(満タン法)/10.8km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。