F1マシンも購入

翌年にはF1マシン(!!)を買った。動かなかったがエンジン付きの本物、90年の「ブラバム・ジャッド」だ。値段は約1000万。

まだ自宅はアパートだったので、実家のガレージに置かせてもらい、たまに眺めては、とんでもないものが自分のものになった事実に打ち震えた。

「そん時思いましたね、願えば近づけるんだって」

フェラーリの市販車は、お金さえ出せば誰でも買えるが、F1マシンはそうはいかない。ほぼ個人間売買だから、それなりの人脈とつながらないと、買うところまでもたどり着けない。

リュウはそこまで到達した。竜の尻尾をつかんだのだ。大雨が降ると冠水する、住所もない砂利敷きの店の激安中古車販売で。

2年ほど前、自宅の新築のために両方とも手放したが、それは決して夢を満たしたからではなく、またいつでも買えるとわかったからだった。

いまリュウの店は、店舗の代わりにコンテナを2台置いている。1台は事務所代わり。もう1台は部品などの置き場だが、そこにひとり、人が住み着いている。

彼はかつて、「住むところがないからクルマをくれ」と来店した客だった。リュウがいくら持ってるのか尋ねると、8000円しかないという。

「さすがに8000円で買えるクルマはないなぁ」

「じゃあ、そこの橋の下で寝ます」。季節は真冬。かわいそうになり、リュウは廃車の中で寝ることを許した。

リュウ氏が購入したF1マシン、90年製の「ブラバム・ジャッド」。ブラバムは、60年代から90年代前半にかけてF1を中心に活動したレーシングチーム・コンストラクター。
リュウ氏が購入したF1マシン、90年製の「ブラバム・ジャッド」。ブラバムは、60年代から90年代前半にかけてF1を中心に活動したレーシングチーム・コンストラクター。拡大
リュウ氏の店には、建屋はなく、代わりにコンテナが置かれていた。
リュウ氏の店には、建屋はなく、代わりにコンテナが置かれていた。拡大
2台あるコンテナのうち1台は事務所として使われていた。
2台あるコンテナのうち1台は事務所として使われていた。拡大
事務所内にはシボレーのV8エンジンをオブジェ化したものが置かれていた。
事務所内にはシボレーのV8エンジンをオブジェ化したものが置かれていた。拡大
清水 草一

清水 草一

お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。

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