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ボルボV90クロスカントリーT5 AWD サマム(4WD/8AT)

もうハンカチーフはいらない 2017.04.28 試乗記 サトータケシ 北欧ののどかな地で生まれた“デカかっこいい”クロスオーバー「V90クロスカントリー」。ワイルド&都会的に仕立てられたキミは、一体どこへ向かおうとしているのか? 筆者の老婆心をよそに進化を遂げた、最新モデルの出来栄えに迫る。

第一印象は“デカかっこいい”

ここ10年ほど、ボルボの新型車を見るたびに、頭の中で太田裕美が「木綿のハンカチーフ」を繰り返し歌うのである。心のどこかで、都会の絵の具に染まらないでほしいと願っているのかもしれない。

2008年デビューの「XC60」や2012年に出た「40シリーズ」は、都会派のプレミアムを目指して東へと向かう列車に乗り込んだ。でも心のどこかで、「無口だけれど誠実な北国の朴訥(ぼくとつ)な青年でいてほしい」と思っていたのだ。
だって都会に出たら大変だよ。ライバルは多いし、競争も激しい。北の国から出ないで、のんびりと暮らす方が幸せではないのか。

けれどもそんな心配は大きなお世話で、2016年には過去最高の販売台数を記録するなど、都会に出たボルボは大成功を収めた。そしてその成功をさらに盤石のものとすべく、SPA(スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャー)という新しいプラットフォームを導入した。

新プラットフォームの第1弾が大型SUVの「XC90」で、セダンの「S90」とワゴンの「V90」も続いた。そして今回試乗したのが、V90にワイルドなSUV風味を加えたV90クロスカントリーだ。ワゴンとSUVのいいとこ取りをしたクロスオーバーと呼ばれるカテゴリーの歴史をさかのぼれば、1997年デビューの「V70XC」が祖先ということになる。

ぱっと見の第一印象は、“デカかっこいい”というもの。サイズを「メルセデス・ベンツEクラス ステーションワゴン」と比べれば、全長4940mmは同じだが、全幅は1905mmと、55mmも幅広い。
運転席に座れば四隅が把握しやすいうえに取り回しもいいけれど、堂々としたサイズであることは間違いない。

「V90クロスカントリー」は「XC70」の後継として登場。「V90」をベースに、最低地上高を55mm上げ、新開発の専用サスペンションや専用のエクステリアデザインが採用される。
「V90クロスカントリー」は「XC70」の後継として登場。「V90」をベースに、最低地上高を55mm上げ、新開発の専用サスペンションや専用のエクステリアデザインが採用される。拡大
「V90クロスカントリー」専用となるクローム仕上げのフロントグリル。内側にへこんだ縦リブの上に5つのスタッドが付いている。
「V90クロスカントリー」専用となるクローム仕上げのフロントグリル。内側にへこんだ縦リブの上に5つのスタッドが付いている。拡大
新世代ボルボに共通の「トールハンマー」をモチーフにしたLEDヘッドライトが採用される。
新世代ボルボに共通の「トールハンマー」をモチーフにしたLEDヘッドライトが採用される。拡大
「V90クロスカントリー」専用となる樹脂製のリアバンパーには「CROSS COUNTRY」のロゴが記されている。
 
「V90クロスカントリー」専用となる樹脂製のリアバンパーには「CROSS COUNTRY」のロゴが記されている。
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クーペライクなリアの形状が特徴。
クーペライクなリアの形状が特徴。拡大
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ウッドとレザーとクロームを贅沢(ぜいたく)にあしらったインテリア。中央には、手袋を装着したままでも操作できる9インチのセンタースタックディスプレイが備わる。
ウッドとレザーとクロームを贅沢(ぜいたく)にあしらったインテリア。中央には、手袋を装着したままでも操作できる9インチのセンタースタックディスプレイが備わる。拡大
今回試乗した「サマム」にはベンチレーション機能やマッサージ機能付きのフロントシートが標準装備される。
今回試乗した「サマム」にはベンチレーション機能やマッサージ機能付きのフロントシートが標準装備される。拡大
後席は6:4の分割可倒式。内蔵式のインテグレーテッド・チャイルド・クッションをオプションで選ぶこともできる。
後席は6:4の分割可倒式。内蔵式のインテグレーテッド・チャイルド・クッションをオプションで選ぶこともできる。拡大
パワーテールゲートはフットオペレーションで開閉可能。荷室容量は5人乗車時で560リッター。後席を倒せばフルフラットな空間が生まれ、1526リッターまで広がる。
パワーテールゲートはフットオペレーションで開閉可能。荷室容量は5人乗車時で560リッター。後席を倒せばフルフラットな空間が生まれ、1526リッターまで広がる。拡大
グローサリーバッグ・ホルダーには、脱着可能なゴム製のストラップが2本付き、立体的な荷物もしっかりと固定することができる。
グローサリーバッグ・ホルダーには、脱着可能なゴム製のストラップが2本付き、立体的な荷物もしっかりと固定することができる。拡大

より都会的なデザインに

ゆとりあるサイズ感は、デザインに伸びやかさを与えている。報道されているようにSPAというプラットフォームの特徴はふたつで、ひとつはフロントの車軸が15cm前方に移動したこと。これにより、FFベースでありながらFR車的なプロポーションを獲得した。

もうひとつの特徴は、エンジンとキャビンを隔てるバルクヘッドから前輪車軸までの距離(ダッシュ・トゥ・アクスル)だけが固定で、あとはフレキシブルに設定できる点。デザインの自由度が増し、はなやいだ街で君への贈り物を探すのにうってつけのデザインになった。

古くからのボルボファンは、ボディー最後端のDピラーの傾斜こそが都会の絵の具に染まった証しだと主張するだろう。ここがすとんと垂直に切り立っていればこそ、荷物がたくさん載せられるのだ。
これに対するボルボのデザイン陣の主張は、以前とは物流システムが変わり、いまや冷蔵庫をクルマに積んで運ぶ必要がなくなった、というもの。確かに一理ある。クルマは世につれ、世はクルマにつれ。

V90クロスカントリーが搭載するエンジンは2種。2リッター直4ターボの「T5」と、2リッター直4ターボ+スーパーチャージャーの「T6」で、いずれもAWD(四輪駆動)となる。今回試乗したのは、「T5 AWD」だ。
走りだして最初に感じるのは、乗り心地のよさ。クロスカントリー専用サスペンションによって、最低地上高はV90より55mm増しの210mmとなっている。車高が高くなったぶん、足を固めて安定させようとしているのではないかというのが試乗前の予想だったけれど、予想は大ハズレだった。

しっかり仕事をこなす実務派

低速域から高速域まで、あらゆる速度帯で4本の足がフレキシブルに伸びたり縮んだりして、路面からの鋭いショックをまろやかにしてくれる。一方で、伸びたり縮んだりした後の余分な動きはきっちり抑え込まれているから、フラットライドが保たれる。
アタリは柔らかいけれど芯はしっかりしていると書くとまるで好人物のようであるけれど、V90クロスカントリーの足まわりはまさにそんな印象だ。

エンジンは低回転域からトルキーで、扱いやすい。パワーも十分で、高速巡航も楽々こなす。マニュアル操作もできるけれど、アイシン・エィ・ダブリュ製の8段ATがドライバーの気持ちを忖度(そんたく)して、加速が欲しい時にはどんぴしゃのタイミングでシフトダウンをしてくれるから、シフトセレクターにはそれほど出番はない。強豪サッカーチームのゴールキーパーのようである。
ちなみに試乗会でのテストだったので燃費は計測できなかったけれど、ATはすっすっと早いタイミングでシフトアップして、いかにも効率がよさそうだ。

過不足なく、滑らかに走らせるパワートレインではあるけれど、良くも悪くも印象に残りにくい実務派。きっちり仕事はこなすけれど、快音やシャープな回転フィールで乗り手を楽しませようというサービス精神は感じられない。
でもご安心あれ。エンジンで楽しみたい方には、パワーもフィーリングもより刺激的なT6が用意されている。

2リッター直4ターボエンジンは最高出力254ps、最大トルク350Nmを発生する。
2リッター直4ターボエンジンは最高出力254ps、最大トルク350Nmを発生する。拡大
トランスミッションはアイシン・エィ・ダブリュ製の8段ATを採用。シフトセレクターの手前にエンジンスタートスイッチが備わる。
トランスミッションはアイシン・エィ・ダブリュ製の8段ATを採用。シフトセレクターの手前にエンジンスタートスイッチが備わる。拡大
試乗車にはオプション装備となる、Bowers & Wilkinsプレミアムサウンド・オーディオシステムが搭載されていた。
試乗車にはオプション装備となる、Bowers & Wilkinsプレミアムサウンド・オーディオシステムが搭載されていた。拡大
写真は「V90クロスカントリー」専用のブラックウォールナットのウッドパネル。木目の凹凸をあえて残すオープンポアー仕上げとなっている。
写真は「V90クロスカントリー」専用のブラックウォールナットのウッドパネル。木目の凹凸をあえて残すオープンポアー仕上げとなっている。拡大
テスト車のタイヤサイズは235/50R19。ミシュランの「ラティチュードスポーツ3」が装着されていた。
テスト車のタイヤサイズは235/50R19。ミシュランの「ラティチュードスポーツ3」が装着されていた。拡大

先進安全装備も充実

試乗会会場では、「ボルボV90 T6 AWD R-Design」と比較試乗する機会に恵まれた。スポーツサスペンションを備えたこちらは、体にビシビシくるほど乗り心地が硬く、まるでスポーツカーのようにシャープにコーナーを曲がる。4000rpm以上でほとばしるパワー感と、乾いた音も魅力的だ。
直接比較してみると、ボルボV90クロスカントリーT5 AWDの乗り心地のよさや、温厚なキャラクターが際立った。

地味ながら実際に試して便利だったのが、パイロット・アシストが作動する速度が、従来の50km/hまでから140km/hまで引き上げられたこと。同時にシステムの名称も「パイロット・アシストIIとなった。
パイロット・アシストとは、アクセルとブレーキに加えてステアリングも自動操作して前車に追従する仕組み。先行車両がいない場面でも、車線を検知して走行車線からはみ出さないようにステアリングを操作してくれる。

作動する速度が140km/hまで引き上げられたことで、高速道路でこのシステムの恩恵に浴することができるようになった。しかもボルボの場合はインターフェイスがよく、スイッチをポン、ポンと2度操作するだけでパイロット・アシストが作動する。
パイロット・アシストが作動するとインパネに表示されるステアリングホイールがグリーンに点灯する。車線認識の精度も向上しているとのことで、おそらくみなさんが想像しているよりはるかに高い頻度でグリーンが灯(とも)る。
この時の加減速やステアリング操作はナチュラルで、長距離になればなるほど疲労低減に貢献してくれるはずだ。

快適な乗り心地や地味ながら心地よいパワートレイン、そしてインターフェイスにすぐれる運転支援装置。見かけはスタイリッシュになったけれど、このクルマは乗る人にやさしいというボルボらしさを強く感じさせるモデルだ。しかも温和なキャラクターは、現代風に洗練されている。
このモデルだったら、古くからのボルボファンも木綿のハンカチーフで涙をぬぐう必要はないのだ。

(文=サトータケシ/写真=池之平昌信/編集=大久保史子)

JC08モード燃費は12.9km/リッター。
JC08モード燃費は12.9km/リッター。拡大
「V90クロスカントリー」には自動運転「レベル2」となる、「パイロット・アシストII」が備わる。作動時には、メーター内のステアリングマークが緑色に点灯し、ステアリング操作も行う。
「V90クロスカントリー」には自動運転「レベル2」となる、「パイロット・アシストII」が備わる。作動時には、メーター内のステアリングマークが緑色に点灯し、ステアリング操作も行う。拡大
今回、比較試乗した「ボルボV90 T6 AWD R-Design」。
今回、比較試乗した「ボルボV90 T6 AWD R-Design」。拡大
「ボルボV90 T6 AWD R-Design」のタイヤサイズは235/35R20。ピレリの「Pゼロ」を装着していた。
「ボルボV90 T6 AWD R-Design」のタイヤサイズは235/35R20。ピレリの「Pゼロ」を装着していた。拡大
ボルボのVシリーズ3兄弟。手前から「V40」「V60」「V90」。

 

ボルボのVシリーズ3兄弟。手前から「V40」「V60」「V90」。
	 
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テスト車のデータ

ボルボV90クロスカントリーT5 AWDサマム

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4940×1905×1545mm
ホイールベース:2940mm
車重:1850kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:254ps(187kW)/5500rpm
最大トルク:350Nm(35.7kgm)/1500-4800rpm
タイヤ:(前)235/50R19/(後)235/50R19(ミシュラン・ラティチュードスポーツ3)
燃費:12.9km/リッター(JC08モード)
価格:754万円/テスト車=849万9000円
オプション装備:チルトアップ機構付き電動パノラマ・ガラス・サンルーフ(20万6000円)/ボディーカラー<クリスタルホワイトパール>(10万3000円)/Bowers & Wilkinsプレミアムサウンド・オーディオシステム<1400W、19スピーカー>サブウーファー付き(45万円)/電子制御式リア・エアサスペンション、ドライビングモード選択式FOUR-Cアクティブパフォーマンスシャシー(20万円)

テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:1673km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(0)/高速道路(7)/山岳路(3)
テスト距離:40.0km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:-- km/リッター

ボルボV90クロスカントリーT5 AWDサマム
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サトータケシ

サトータケシ

ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。

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