フランス男はアバンチュールしか脳にない

愛車に美女を乗せてドライブできるから、ジャックはルンルン気分だ。その日のうちにパリに着こうとは、さらさら考えていないらしい。行程の10分の1も走っていないうちにランチとしゃれ込んだ。シャトー・ヌフ・デュ・パプの味わいについて解説し、生ハムとメロンの相性について語るから、食事はなかなか終わらない。レストランからヴィエンヌのホテルに予約の電話を入れていたから、最初から狙っていたのだろう。

ランチの後も、クルマは遅々として進まない。サント・ヴィクトワール山を眺めてセザンヌの絵画についてのうんちくを垂れたり、ポン・デュ・ガールの水道橋を見に行ったりしているからだ。一泊することになったヴィエンヌは、本来ならば4時間で到着する距離である。フランスの男はアバンチュールのことばかり考えている、という通念を前提としたストーリー展開なのだ。

翌日もフランス能天気男は絶好調。コンビニにアンを残してどこかに行ってしまい、帰ってくると後席にバラの花束を満載していた。バブル期の青年雑誌に「彼女を確実に射止める方法」として紹介されていたワザだが、ルーツはフランスだったのだろうか。お遊びが過ぎたようで、ちょい悪オヤジに天罰が下る。504のボンネットから煙が上がり、走行不能になってしまったのだ。

原因はファンベルト切れである。途中何度もラジエーターに水を継ぎ足していたから、水漏れもあったのだろう。ジャックはアンがストッキングを脱いでファンベルトの代用にしたことに感心していたが、旧車乗りなら当然の知識を知らないとは情けない。水漏れを放置して長距離を走ろうとするところも、危機管理意識が低すぎる。504は修理工場預かりとなり、代車の「ルノー・カングー」で旅を続けることにした。ジャックは「食欲が減退するクルマだ……」と嘆いていたが、アンは胸をなでおろしていたに違いない。

2009年、エレノアはカンヌからパリまでフランスの男性のプジョーに乗って旅をしている。この映画のストーリーは、彼女の体験に基づいているのだ。当時でも70歳を超えていたわけだが、6年かけてロマンチックな脚本を仕上げた。彼女は1936年生まれだから、市原悦子と同い年である。気持ちの若さには感嘆するしかない。

(文=鈴木真人)

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「ルノー・カングー」
ルノーが販売する小型MPVで、1997年にデビュー。乗用車と商用車の2本立てで開発されたが、乗用車版が人気となって多くの追随モデルが現れた。日本ではルノーのラインナップ中最大の売り上げを誇る。映画で使われているのは、2007年にフルモデルチェンジされた“カングー2”。
 
「ルノー・カングー」
	ルノーが販売する小型MPVで、1997年にデビュー。乗用車と商用車の2本立てで開発されたが、乗用車版が人気となって多くの追随モデルが現れた。日本ではルノーのラインナップ中最大の売り上げを誇る。映画で使われているのは、2007年にフルモデルチェンジされた“カングー2”。
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『ボンジュール、アン』
2017年7月7日(金)TOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー
配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES
『ボンジュール、アン』
	2017年7月7日(金)TOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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