『テキーラ』のリズムで銃撃戦

ドクと呼ばれるリーダーは、ケヴィン・スペイシー。彼がプランを練り、腕利きを集めて犯罪を実行させる。キレやすいバッツ、バカップル強盗のバディとダーリンが最強のメンバーだ。バッツのジェイミー・フォックスは身体全体から凶暴な空気を漂わせ、ベイビーを威嚇する。バディのハムは『Mr.&Mrs.スパイ』では『ワンダーウーマン』のガル・ガドットとラブラブだったが、今回はエイザ・ゴンザレスとイチャイチャしている。悪人どもがみんな魅力的なキャラクターなのも、この作品の美点だ。

アクション映画、恋愛映画として優れているのは確かなのだが、この作品の価値はほかのところにある。音楽映画としての側面だ。ベイビーは常にiPodで音楽を聴いている。幼い頃の事故が後遺症をもたらし、常に耳鳴りがやまないからだ。強盗から帰ってきてコーヒーを買いに行くときも、耳にはイヤホン。ボブ&アールの『ハーレム・シャッフル』を聞きながら踊ってコーヒーショップへ。彼だけでなく、街を歩く人々も音楽に合わせて体を揺らす。伝道師やストリートミュージシャンがシンクロした動きを見せ、クルマもリズムに乗って走っている。それを長回しで一気に見せるのだから、緻密な準備のためにとてつもない時間が必要だったはずだ。

圧巻なのは、武器商人との銃撃戦である。『テキーラ』のリズムに合わせてガンアクションが展開するのだ。ブラスが高鳴ると一斉に銃から火が放たれ、手りゅう弾が爆発するとバッツが「テキーラ!」と声をあげる。スクリーンに映し出される光景の後ろには常に音楽が流れていて、映画を推進する力の源になっている。この映画をカーチェイス版『ラ・ラ・ランド』と呼ぶなんて、失礼にすぎる。『ベイビー・ドライバー』はミュージカルの再定義なのだ。

監督はエドガー・ライト。『ショーン・オブ・ザ・デッド』『ホット・ファズ 俺たちスーパーポリスメン』などで知られるイギリス出身の才人だ。サイモン・ペッグ、ニック・フロストと組んで秀逸なコメディー映画を送り出してきたが、今回のハリウッドデビューはまったく異なるジャンルの作品となった。オタク受けの作風から離れ、堂々たるエンターテインメントを作り上げる才能だということを証明したのだ。

この傑作が全国でわずか41館という公開規模なのは、まったく合点がいかない。『この世界の片隅に』が63館から300館以上にまで拡大したのは、口コミの力だった。スバリストを先頭に劇場に押しかけ、クルマ好きの底力を見せつけようではないか。

(文=鈴木真人)
 

 
第153回:スバルが活躍するアクション映画はミュージカル!?『ベイビー・ドライバー』の画像拡大
 
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『ベイビー・ドライバー』
2017年8月19日(土)新宿バルト9 他全国ロードショー
配給:ソニー・ピクチャーズ エンターテインメント
『ベイビー・ドライバー』
	2017年8月19日(土)新宿バルト9 他全国ロードショー
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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