日本車を支える真面目なスタッフ

のちに幸運をもたらしてくれたのはマツダだった。

2015年、マツダのフォードとの資本関係解消は、イタリアでの販売政策にも変化を及ぼしたのだ。

「従来マツダ車は、フォード販売店の目立たない片隅で売られているのが常でした。マツダのイタリア法人は、フォードとの併売ではない独自の販売チャンネルづくりを模索し始めたのです」

エンツォ氏はマツダの地区販売代理権を獲得した。スバルとマツダでは、顧客にどんな違いがあるのだろうか?

「スバルのお客さんはAWDや水平対向エンジンに共感する技術志向。一方でマツダのお客さんは、洗練されたデザインと高い質感に引かれる方です」

新たに店を支えることになったブランド、マツダに期待するとともに、かつて成功のきっかけとなったスバルには感謝している。

「スバルのイメージはブランドの方針もあり、初代インプレッサ時代のスポーティーさから安全性へと変化しました。しかし私は、スバルのフィロソフィーと結婚したのです」

日本車とともに生きた31年の人生を、エンツォ氏はそう結んだ。

エンツォ氏と別れたあと、販売店の中を再び見学することにした。ジャンニ・バンディーニ氏は自動車販売歴30年。近年のマツダ車のクオリティーにほれ込んで、この店のマツダ取り扱い開始とともに転職した。パーツ係のステファノ氏は勤続11年だ。頭上にはWRCで疾走するスバルのポスター、脇には「スバル・トレセッサンタ」、つまり「スバル360」のモデルカーが置かれている。

「常にストックを調整しながら、消耗部品は決して切らさないようにしておくのが仕事です」と熱く語る。

たしかにイタリアで日本車のイメージは、ハイパフォーマンスカーやコンペティションカーがけん引してきた。しかし街角にエンツォ氏とスタッフのような真面目な人たちがいたからこそ、その確固たる信頼を獲得できたのである。

(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=関 顕也)

取材に訪れた日、納車専用ブースでは、3台のマツダ車がオーナーを待っていた。
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パーツ倉庫と、担当のステファノ氏。頭上の手作り六連星マークが、ブランドへの愛着を感じさせる。
パーツ倉庫と、担当のステファノ氏。頭上の手作り六連星マークが、ブランドへの愛着を感じさせる。拡大
スバル販売歴31年、エンツォ・ムニャイーニ氏。
スバル販売歴31年、エンツォ・ムニャイーニ氏。拡大
大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。21年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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