老いた男と若い女の恋?

舞台はパリ5区のカルチェ・ラタン。27歳のマヴィは地方出身で、パリに出てきたばかり。友人の画家フェリシアのアパートに同居させてもらっている。都会での生活は、彼女にとって心地よいものではない。街を歩いていても落ち着かず、自分は受け入れられていないと感じている。突然頭の上からカモメの死体が落ちてきたりすることさえあるのだ。部屋に戻って居間のソファで読書していると、フェリシアの寝室からあられもない声が響いてくる。奔放な彼女は、恋人のミゲルを引き入れて一日中愛の行為にふけっている。

居場所のないマヴィにとって、カフェで読書する時間が最も安らぐ。帰ろうとして、彼女は壁にあった求人の張り紙を見つけた。「貸間:ワンルーム 家賃:数時間の労働」と書いてある。職なし家なしのマヴィには飛びつきたくなる条件だ。勤務先は、裏通りにある古書店「緑の麦畑」。訪ねていくと、書店の経営者ジョルジュからいきなりレジの鍵を渡され、留守番を申し付けられる。どうせ客は来ないから問題ない、と言うのだ。

店は段ボール箱だらけで、商売しようという意欲が感じられない。ジョルジュには事務能力が欠如しているようである。見かねたマヴィは片付けようとするが、彼女も整理整頓の資質は持っていないようで、何日たっても店内は雑然としている。どうやら、ジョルジュは客が来ることを望んでいないようなのだ。

彼はそろそろ70歳になろうかという年齢だが、ふたりは次第に打ち解けて一緒に食事をしたり、散歩に出かけたりするようになる。老齢に入りかけた男と若い女の恋というテーマは、世の男性にとって魅力的だ。30年ほど前、三流作家が経済紙に連載したエロ小説が中年男性から熱狂的に支持され、映画化、ドラマ化までされたことを思い出す。

 
第157回:パリの年齢差カップルはA8の中で沈黙する『静かなふたり』の画像拡大
 
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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