ユペールの娘とドヌーヴの相手役

ジョルジュはマヴィを誘ってドライブに出かける。車内でも、ほとんど会話は交わされない。彼女は「この沈黙が好き」と心の中で語る。交際を始めたばかりのカップルほどドライブ中に会話が途切れるのを恐れるものだが、彼らは安易に言葉に頼らない。高台からふたり並んでパリの街を眺める時も、黙り込んだままである。

マヴィを演じるのは、ロリータ・シャマ。イザベル・ユペールの娘である。『Droles d'oiseaux(奇妙な鳥)』という原題は、彼女が片足を上げて膝をかくしぐさが鳥に似ていたことから付けられたそうだ。ジョルジュ役は『昼顔』でドヌーヴの相手役を務めたジャン・ソレル。実年齢は83歳だというから恐れ入る。角度によっては、二谷英明にちょっと似ている。

監督のエリーズ・ジラールは、これが長編映画2作目となる新鋭だ。フランスのカルチャーマガジン『レ・ザンロック』は彼女のことを「フランスのジム・ジャームッシュ」と表現している。前作『ベルヴィル・トーキョー』は、妊娠した妻と父親になることを受け入れられない男の物語だった。『静かなふたり』と同様に語り口はミニマムで、自分勝手で器の小さい男と彼を突き放しきれない女の心の動きを丁寧に描いていた。

タイトルにトーキョーとあるが、日本で撮影されたわけではない。男が東京に出張すると妻にうそをつき、パリの移民街ベルヴィルで愛人と暮らしていたことを意味している。ただ、本当に日本が舞台となる企画『Sidonie au Japon』が現在進行中だという。彼女の視線で切り取られた日本はどんな姿を見せるのか、楽しみでならない。

(文=鈴木真人)

©KinoEletron - Reborn Production - Mikino – 2016
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『静かなふたり』
2017年10月14日より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー
『静かなふたり』
	2017年10月14日より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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