日本のバブル崩壊がなかった世界

前作からの30年は映画本編では描かれていないが、2022年、2036年、2048年に起きた出来事を題材にした3本のショートムービーが公開されている。ウェブ上で観ることができるので、事前にチェックしておくとわかりやすいだろう。

都市の景観は前作を発展させたものだ。高層ビルと猥雑(わいざつ)な市街地が共存しているのは、新宿・歌舞伎町からヒントを得たデザインだといわれている。日本語の看板やネオン表示がエキゾチックな情景を作り出していた。日本の経済力が発展し、日米貿易摩擦が激化していた時代である。当時の感覚では、2019年には日本が世界で存在感を高めていると想像するのは当然だった。

実際にはバブル崩壊以後の日本は長期停滞に入るわけだが、前作の設定を変えるわけにはいかない。2049年のロサンゼルスでも、カタカナ交じりの看板が多く見られる。デッカードが魚丼(?)を4つ注文して「2つで十分ですよ!」とたしなめられた屋台は残念ながら登場しなかった。ゲイシャガールがネオンサインで宣伝する「強力わかもと」が出てこないのも、日本人としてはもの足りないところである。

コカ・コーラのネオンサインがあるのはいいとして、パンナムのビルが残っているのは激しい違和感がある。1960年代には世界のトップ企業だったパンナムは、1991年に破産して運航を停止してしまった。映画が公開された1982年にはすでに経営が悪化していたが、まさか倒産するとは思わなかったのだろう。

レプリカントを製造していたタイレル社という名前を聞けば、どうしてもF1のタイレル6輪車を思い出してしまうだろう。後にティレルと表記されるようになるが、当時はアメリカ風にタイレルと呼ばれていた。6輪車「P34」が参戦したのは1976年。1982年にはミケーレ・アルボレートがファーストドライバーを務めていた。1990年代には3人の日本人ドライバーが乗ることになるが、21世紀を迎える前にチームは消滅している。

 
第158回:未来の自動車市場はプジョーが独占する?『ブレードランナー 2049』の画像拡大
 
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鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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