不機嫌そうな人々の温かい物語

カーリドの申請は却下されてしまう。トルコに戻されることになると、妹を見つけることはできない。彼は施設から逃げ出した。捕まったら間違いなく強制送還されるだろう。警官に発見されないように慎重に行動しなければならないが、敵はほかにもいた。ネオナチである。「フィンランド解放軍」と称する暴力集団が難民狩りをしているのだ。

連中の襲撃から危うく逃れたカーリドは、一夜の宿をレストランのゴミ箱の陰に求めた。見とがめたのは、ヴィクストロムである。口論から殴り合いになるが、体格に勝る北欧人が圧勝した。KO負けを喫したカーリドは、なぜか店に招き入れられる。食事を提供された後、従業員として働くことを許されるのだ。

カウリスマキ映画の登場人物たちは、ほとんど笑顔を見せない。スクリーンには左右非対称の顔を持つ不機嫌そうな人々が映っているから、何か嫌な出来事が起きているように見える。実際のところは、心優しい人たちが他者を温かく迎え入れているのだ。表面で見えているものとは正反対の物語が進行している。人は見た目が100%という法則は、ここでは通用しない。

レストランオーナーと難民青年は、物語の始まりですでに一度出会っている。ヴィクストロムが愛車に乗って妻のもとを飛び出すと、石炭まみれのカーリドが歩いているのに気づいて急ブレーキをかける。この時はお互いに何も意識していない。観客は異様な風体の青年と同等の違和感をクルマからも受けるだろう。見たことのないスタイルなのだ。

© SPUTNIK OY, 2017
© SPUTNIK OY, 2017拡大
 
第160回:レアなアメリカ車が難民青年を乗せて走る『希望のかなた』の画像拡大
 
第160回:レアなアメリカ車が難民青年を乗せて走る『希望のかなた』の画像拡大
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

あなたにおすすめの記事
新着記事