Uberにもストーリーあり

しかしながら最も印象的だったのは、あるアジア系ドライバーだった。彼はプリウスでロサンゼルスショーの会場に向かう途中、Uberドライバー用ナビアプリの指示を見落とし、道を間違えてしまった。

彼はすかさず、アプリのメーターを止めてくれた。「LAはフリーウェイの出口をひとつ間違えると、5マイル(約8km)走ってしまうことがザラだから。こうでもしないと料金が上がっちゃうよ」。「客用アプリ上での“ドライバー評価”が気になるのか?」と聞けば、「それよりも、お客さんがハッピーなら、僕もハッピー」と言って笑顔をみせた。

彼は1980年代前半、まだ幼いときに両親とともに台湾から移住してきたという。

「兄貴は両親の希望にしたがって法学を専攻したけど、CGアーティストに転向したんだよ」

当然のことながら親は激怒したそうだ。

「でも兄は、自分の意思を貫いたんだ。映画『トランスフォーマー』のスタッフロールに、兄貴の名前が初めて制作スタッフのひとりとして出たときは、僕も彼と一緒に涙したよ」

筆者自身も、初めて自分の名前が雑誌の編集スタッフ欄に載ったとき、それはそれはうれしかった。その思い出を話すと彼はほほ笑んだ。

やがてプリウスはロサンゼルスショーの会場に近づいた。降りる間際、その台湾系ドライバーは「僕も本当は、アートセンター(・カレッジ・オブ・デザイン)で勉強して、カーデザイナーになりたかったよ」と感慨深げに明かしてくれた。

蛇足ながらLAのあと立ち寄った東京でも、ボクは初めてライドシェアを使ってみた。日本では乗り合いプランは提供されていないので、普通のサービスをアプリで選んだ。

あっという間に、黒塗りの「トヨタ・アルファード」がやってきた。日本の法令にしたがい、ハイヤー会社によるものである。LAの乗り合いUberからすると、車両のコンディションは段違いに良かった。きちんと制服を着用したドライバーは、映画『007 ゴールドフィンガー』で、敵役のお抱え運転手として「ロールス・ロイス・ファントムIII」を操る俳優・ハロルド坂田のごとく、目的地まで黙々とドライブした。さすがプロである。

しかし個人的には、さまざまな国からやってきたドライバーたちがさまざまな人間ドラマを見せてくれる、LAのライドシェアのほうが刺激的に感じられた。そして彼らが懸命に働く姿は、エリアは違えど異国に住むボクを大いに鼓舞してくれたのであった。

(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=関 顕也)

クルマの到着を待つ間、ガソリンスタンドでホットドッグを食す。バンズ(パン)は、客が自分で容器から取り出してソーセージと合体させる。
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ある朝やってきた、トヨタの北米製ミニバン「シエナ」の車内。すでに複数の相乗り客がいたため筆者はサードシートに着座させられたのだが、意外に窮屈感はなかった。
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あるUberのドライバーは、インターネットラジオを愛聴していた。「音質が安定しているし、好きなジャンルの音楽を扱う局に絞れるのもうれしいね」と話す。
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モーターショーの会場であるロサンゼルス・コンベンションセンターにて。
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大矢 アキオ

大矢 アキオ

コラムニスト/イタリア文化コメンテーター。音大でヴァイオリンを専攻、大学院で芸術学を修める。1996年からシエナ在住。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとして語学テキストやデザイン誌等に執筆活動を展開。19年にわたるNHK『ラジオ深夜便』リポーター、FM横浜『ザ・モーターウィークリー』季節ゲストなど、ラジオでも怪気炎をあげている。『Hotするイタリア』『イタリア発シアワセの秘密 ― 笑って! 愛して! トスカーナの平日』(ともに二玄社)、『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、電子書籍『イタリア式クルマ生活術』(NRMパブリッシング)、『メトロとトランでパリめぐり】(コスミック出版)など著書・訳書多数。YouTube『大矢アキオのイタリアチャンネル』ではイタリアならではの面白ご当地産品を紹介中。

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