アルファ・ロメオ・ジュリア クアドリフォリオ(FR/8AT)
悪友に再会したような気分 2017.12.22 試乗記 新型「ジュリア」はアルファ・ロメオの復活を強く印象付ける力作だ。ドライバーズシートに収まり、久しぶりのFRシャシーを操ると、かつて馴染(なじ)んだあの感覚がよみがえる。まるで悪友に再会したような気分だ。510psを誇るフラッグシップグレード「クアドリフォリオ」に試乗した。あいつ、いま、どうしてる?
このところのアルファ・ロメオは昔なじみが集まった会合で、「そういえばあいつ、最近どうしてるか知ってるか?」と消息をうわさされるような存在だった。直近のニューモデルは「4C」だが、その登場はもう4年も前、しかもマニアックなミドシップ2シーターだから、台数はそもそも見込めない。ついでにいえば出来栄えも少々期待外れであり、変化する時代の中でちょっと忘れられたかつての人気者といった扱いだったように思う。ところが最近は一転、ジュリアに続いて初のSUVモデルである「ステルビオ」も発表され、すこぶる鼻息が荒い。歴史を知る者には逆にその勢いが心配になるのだが、まあ今度こそうまくいってほしいものである。
新型ジュリアはアルファ・ロメオにとって久しぶりのボリュームモデルであり、また忘れるぐらい久方ぶりの後輪駆動車でもある。セダンとしては「75」以来ということになるが、もう四半世紀はたつから、今ではアルファ・ロメオがもともと後輪駆動車メーカーだったことを知る人も少ないのではないだろうか。したがって名前は懐かしい人気モデルを復活させた形だが、初のFRモデルと言ってもいいぐらいだ。新しいジュリアは、ドイツのプレミアム勢に真っ向勝負を挑み、さらには米国本格進出という悲願を達成するための意欲的な、いやむしろ野心的と言っていいニューモデルである。
それにしても発表から日本導入まで2年もかかるのでは、あいつ、どうしてるんだっけ? と言われても仕方ない。だがステアリングを握れば、お前、まるで変わってないなあ、と懐かしさとうらやましさに、ちょっとあきれる気持ちが入り交じり、思わず苦笑いが漏れるようなスポーツセダンだった。
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V6ツインターボのトップモデル
ジュリアのメイングレードは2リッター4気筒ターボを積んだモデルだが、いっぽうクアドリフォリオは510psを発生させる2.9リッターV6ツインターボを搭載した最強力版のフラッグシップだ。1132万円という価格も「BMW M3」や「メルセデスAMG C63」と真っ向からぶつかるレベルである。
アルファ・ロメオはそのV6ツインターボを自社開発と言いたいらしいが、「フェラーリ・カリフォルニアT」のV8ターボユニットとボアもストロークも同一の90度V6なのだから、気持ちは分かるがそれはちょっと無理がある。直近のアルファ・ロメオの年間生産台数はわずか6万~7万台、その程度の規模でまったく新しいパワーユニットを開発するのは業界の常識から外れている。そもそも、今どきグループ内でエンジンをモジュラー化するのは当然でまったく恥ずかしいことではないが、知らぬ顔で100%自社製とうたうその能天気ぶりがイタリアらしいと言えるかもしれない。
その2.9リッターV6ツインターボは、510ps(375kW)/6500rpmと600Nm(61.2kgm)/2550rpmを生み出し、8段ATを介して0-100km/h加速3.9秒、最高速307km/hを豪語する。数値だけでなく、中間域でのパワフルさ、滑らかさ、7000rpmまでスムーズに回る回転フィーリングのどれをとっても文句ない。痛快に回し切ってパワーを絞り出すタイプではなく、強烈なトルクでグイグイ押し出す性格だが素晴らしく速いことに変わりはない。ドロドロとしたアメリカンV8のような音だけは、ちょっと雰囲気が違うのではないかと思う。またアイドリングストップも気筒休止システムも備わっているというが、実際の燃費はかなり悲観的。箱根往復の平均で5~6km/リッターは近ごろ珍しいほどのレベルだ。
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飛ばすと笑みが漏れる
ステアリングの切り始めのレスポンスはちょっと面食らうほどにピーキーで、いかにもトルクベクタリングとスタビリティーコントロールを前提としたような初期ゲインの鋭さはまるで最近のフェラーリのようだ。
ただし、さらに切り込んでいくとかつて馴染んだあのリニアなフィーリングが顔を出す。コーナリング中にさらに切り込んだり戻したりという操作を余さずくみ取ってくれる身のこなしはアルファの名に恥じないと言えるだろう。心配していたほど乗り心地がスパルタンでないことも好印象。もちろんビシッとフラット感が強調されているが、ダイナミックモードでも硬く突っ張った感触はない。
ブレーキは踏み始めの微妙なコントロールが難しく、低速ではカックンブレーキになりがちだが、ガシンと思い切って踏むような場合の減速Gの立ち上がりやコントロール具合は非常によろしい。この二面性は何だと苦笑いが漏れるぐらい、飛ばすと輝くはっきりした性格だ。
苦笑いで済めばいいけれど
室内は狭いというかタイトである。広々ルーミーなインテリアスペースが最優先事項でなかったことは明らかで、前席は体にフィットするような仕立てだし、またリアシートはサイドが絞り込まれているためとルーフが下がっているせいでヘッドルームもレッグスペースにも余裕はないが、まずまず不足はないはずだ。他のモデルと寸法は変わらないのに、なぜかクアドリフォリオのみ定員は4人となっている。
いわゆる先進的安全運転支援システムも完備していると言っていいだろう。苦笑いしなければいけないのは、インフォテインメント系だ。ダッシュ中央には8.8インチモニターが備わるが、カーナビの備えはなく端からスマホをつないでApple CarPlayなどを使用せよということらしい。ただし使い勝手や多機能性という面では、メルセデスやBMWを向こうに回して戦おうという1000万円オーバーのモデルにしては、言い訳しようのないところだ。
他にも日本語に翻訳してあるメッセージ類がまことに中途半端というか、きちっとした仕事をしていない点が残念だ。われわれオヤジ世代なら苦笑で済ませることもできるが、アルファ・ロメオを知らない若い世代は単に“不良品”と決めつけるかもしれない。勢いに乗ってF1に名前を復活させたり、専売店ネットワークを築いたりするのも結構だが、フットワークが優れているから他は大目に見てよ、という姿勢は今や甘えか怠慢である。名前とスポーティーさの代わりに他の部分は許すという寛容なファンだけを狙っているなら別だが、新しいカスタマーを勧誘するには細部まできっちり真面目に考える必要があるだろう。
(文=高平高輝/写真=小河原認/編集=竹下元太郎)
テスト車のデータ
アルファ・ロメオ・ジュリア クアドリフォリオ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4635×1865×1435mm
ホイールベース:2820mm
車重:1710kg
駆動方式:FR
エンジン:2.9リッターV6 DOHC 24バルブ ツインターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:510ps(375kW)/6500rpm
最大トルク:600Nm(61.2kgm)/2550rpm
タイヤ:(前)245/35ZR19 93Y XL/(後)285/30ZR19 98Y XL(ピレリPゼロ コルサ)
燃費:--km/リッター
価格:1132万円/テスト車=1169万6380円
オプション装備:ボディーカラー<トロフェオ ホワイト:3層コート>(32万4000円)/ETC(1万1340円)/フロアマット(4万1040円)
テスト車の年式:2017年型
テスト開始時の走行距離:3236km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:271.7km
使用燃料:50.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.4km/リッター(満タン法)/6.4km/リッター(車載燃費計計測値)
