差別が横行していたアメリカ車の黄金時代

リチャードとミルドレッドは恋人同士。妊娠を告げるミルドレッドに、リチャードは満面の笑みで「結婚しよう」と語りかける。ありふれた幸福の風景だが、一つだけ問題があった。リチャードは白人で、ミルドレッドは黒人。1958年のアメリカ・バージニア州では、異人種間の結婚は違法だった。

『ラビング 愛という名前のふたり』は、実話を元にした映画である。純愛を貫く2人の名字がLovingというのは出来過ぎのようだが、これも事実だ。レンガ職人のリチャードは真面目で勤勉な青年で、稼ぎも悪くない。愛車は「フォード・クラウンヴィクトリア」で、仲間たちとはドラッグレースを楽しんでいる。モータリゼーション真っただ中という時代だ。食卓では「フォードとシェビーはどっちが速いか」という話題に花が咲く。

2人は異人種間の結婚が認められていたワシントンDCまでクルマを飛ばし、晴れて婚姻許可証を手に入れた。しかし、地元の警察官には通用しない。真夜中に寝室を急襲し、2人を逮捕する。困ったことに、彼らは正義を執行していると思いこんでいるのだ。当時は一定数の人間が白人と黒人が結婚することは不道徳だと信じていた。想像しがたいことだが、今でも使命感に燃えてヘイトスピーチに精を出す連中がいるのだから彼らを笑えない。

裁判にかけられた2人は懲役刑を免れたものの、州から出ていくよう命じられる。25年の間、故郷に戻ってくることはできない。ワシントンDCで新生活を始めるが、ミルドレッドはどうしてもリチャードの母のもとで出産したいと言う。2人は危険な賭けに出る。途中でクルマを乗り換え、警察の目を欺こうとしたのだ。

もちろん、それは根本的な解決にならない。1964年になるとラビング夫妻は3人の子供たちとともにひそかに故郷に戻って暮らし始める。ミルドレッドが司法長官のロバート・ケネディに手紙で訴えたことで、司法が動き始めた。1967年、ついに最高裁が異人種間結婚禁止を憲法違反だと認めることになる。

賢くてしっかり者の妻ミルドレッド役のルース・ネッガ、ちょっとぼんやりしているが優しくて愛情深い夫役のジョエル・エルガートン。2人の素晴らしい演技が作品に深みとリアリティーを与えている。

(文=鈴木真人)
 

『ラビング 愛という名前のふたり』DVD
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「フォード・クラウンヴィクトリア」
1955年に「フェアレーン」の1グレードとして登場(写真は1957年型「フェアレーン500」)。1992年からは独立車種となり、長らくパトカーやタクシーとして親しまれた。
「フォード・クラウンヴィクトリア」
	1955年に「フェアレーン」の1グレードとして登場(写真は1957年型「フェアレーン500」)。1992年からは独立車種となり、長らくパトカーやタクシーとして親しまれた。
鈴木 真人

鈴木 真人

名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。

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