垂直を水平に展開する画期的なアイデア

ゴットリープ・ダイムラーが初の四輪自動車を製作した時、ボディーは馬車会社に発注した。自動車は馬車に代わるものとして発想されており、当時としては自然な方法だったはずだ。彼は馬車の後席の下部に穴を開け、エンジンの置き場所を作った。方法に多少の違いはあったが、初期の自動車はどれもMRかRRの駆動方式を採用していたのである。

1889年、ダイムラーはパリ万博にV型2気筒エンジンを搭載した「シュトールラートヴァーゲン」を出品する。それを機に、フランスでも自動車事業を起こそうという機運が芽生える。ルネ・パナールとエミール・ルヴァソールが設立したパナール・エ・ルヴァソールもその一つだ。

当時ダイムラーの製造権を取得していたエデュアール・サラザンから委託されてエンジンを製造することになったが、サラザンが急死してしまう。製造権を継承した妻のルイーズはエミール・ルヴァソールと結婚し、パナール・エ・ルヴァソールがダイムラーのライセンシーとなった。

後発のメーカーは、まずはベンツやダイムラーを模倣して自動車を造った。成功したモデルをお手本にするのは当然だが、安定性に問題があることが知られるようになる。巨大なエンジンの上に座席を置くので、重心が高くなってしまうのだ。

パナール・エ・ルヴァソールの第1号車は、前後背中合わせに座席を配した“ドザド”と呼ばれる形式だった。エンジンは座席の間、ホイールベースのほぼ中央に置かれていた。乗員全員の背中のすぐ下にエンジンがあるわけで、当然のことながら騒音や振動に悩まされた。それを不満に思ったルヴァソールは、画期的なアイデアを思いつく。エンジンと座席を垂直に積み上げていたのを、水平方向に展開するのだ。

ゴットリープ・ダイムラーが初めて製作した四輪車。「妻へのプレゼント」と称して購入した馬車を改造したもので、エンジンは後席の床に穴を開けて搭載された。
ゴットリープ・ダイムラーが初めて製作した四輪車。「妻へのプレゼント」と称して購入した馬車を改造したもので、エンジンは後席の床に穴を開けて搭載された。拡大
ダイムラーが1889年のパリ万博に出展した「シュトールラートヴァーゲン」。
ダイムラーが1889年のパリ万博に出展した「シュトールラートヴァーゲン」。拡大
急死した夫から、フランスにおけるダイムラーエンジンの製造権を引き継いだルイーズ・サラザン。
急死した夫から、フランスにおけるダイムラーエンジンの製造権を引き継いだルイーズ・サラザン。拡大
パナール・エ・ルヴァソールが製作した初めての自動車。人が背中合わせに乗車する“ドサド”と呼ばれる形式のクルマで、エンジンは車体中央に搭載されていた。
パナール・エ・ルヴァソールが製作した初めての自動車。人が背中合わせに乗車する“ドサド”と呼ばれる形式のクルマで、エンジンは車体中央に搭載されていた。拡大
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